本研究では反応性制御因子として分子の立体配座多様性に着目し、計算化学による高度な反応基質設計を実現することを目的としている。本年度は、実際の天然物合成で利用された反応について、独自に開発した多配座解析処理プログラムライブラリーACCeL(https://accel.kfchem.dev/)を用いることで、立体配座網羅的な計算解析を実施し、2報の論文を報告した。1報目の論文では、アリルシランとイミニウムイオンによるアザスピロ環構築反応について、その立体選択性の起源について解析した。本反応基質は比較的配座自由度の高い構造を有していたものの、結合形成時における遷移状態について、合計300以上の立体および配座異性体を取得することで、実験結果と良い一致を示す計算結果が得られた。また、得られた遷移状態群の解析には、Cremer-Popleパラメーターと配座安定性に注目した解析手法を利用することで、本反応における立体選択性と基質構造の関係性について詳細に解析することができた。2報目の論文では、金触媒によるエーテル環構築における位置選択性について解析した。同様に、立体配座の多様性を十分に考慮した計算プロトコルにて、多数の遷移状態群を取得し、反応の選択性について考察した。本考察では、基質中の重要な構造成分のみを別に配座網羅的に解析する手法を用いた。いずれの研究でも、反応性制御因子として、遷移状態における立体配座の重要性を示すことができ、今後より高度な反応基質設計が達成できるものと考えている。
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