研究領域 | デジタル化による高度精密有機合成の新展開 |
研究課題/領域番号 |
22H05377
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
池田 浩 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 教授 (30211717)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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キーワード | シミュレーション / 機械学習 / 光反応 / 電子移動反応 / フロー法 |
研究実績の概要 |
(研究の概要)p型有機半導体(以下、有機半導体)の合成はマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の典型的な対象であるが、従来の機械学習では既存分子の実験データのみを対象としていた。従って有機合成の効率化は達成しつつも、機械学習そのものに律速段階があった。本研究では新規理論を基にした仮想分子の模擬実験データの機械学習を行い、有機半導体の機械学習そのものの効率化を図る。また、有機合成では従来型の光バッチ法から光フロー法への転換と光フロー反応条件の最適解の一般化により、さらなる効率化を図る。最終的には新理論による模擬実験、機械学習、光フロー合成を含む次世代MIにより、有機半導体のデジタル光有機合成を展開する。 (研究の目的)有機エレクトロニクスの根幹を支えるアモルファス固体性有機半導体の開発は、現在ですら経験的な分子設計指針に基づく全件合成による探索に帰することが多い。また、これらの合成の多くはバッチ法の熱反応によるもので、高コストを招いている。効率的な有機半導体開発の手法として機械学習とフロー法が注目されているが、必ずしも万能ではない。現在の機械学習は内挿型予測に過ぎず、既存分子類似の分子しか設計できない。また、フロー法の光反応は最適化の時間と労力を要する。これらの問題を解決すべく、本研究では次の3点を目的とする。 1. 仮想分子の模擬実験データで機械学習を行い、未知有機半導体を提案する 2. Mallory型反応を利用し、光フロー法と光誘起電子移動反応を組み合せたフロー光誘起電子移動反応法で合成する 3. 上記手法の一般性を検討し、有機半導体のデジタル光有機合成として確立する 本研究は【現在までの進捗状況】に示す三つの課題からなる。当該年度はとしては、事前に【課題1】①の機械学習の結果で示唆された、チアゾール環を有する未知有機半導体(3)の合成を【課題2】の方法で行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は次の3課題からなる。新仮想分子Nnとしての3の合成中間体2からの小スケール合成は問題ないことから、上記の評価となった。 【課題1】実験データと模擬実験データを対象とする機械学習ーー①既存分子の実験データを対象とする機械学習と分子設計 最初に既存の有機半導体のキャリア移動度 μ の実験値(μEXP)を対象に機械学習を行い、高いμEXP を与える分子条件を明らかにする。次にそれらを用いて仮想分子(X1, .. Xn)を数多く設計する。②仮想分子の模擬実験データを対象とする機械学習と分子設計 麻田が独自開発した ASSiSt 法を用いて、そのアモルファス 固体におけるキャリア移動度(μSIM)を推定し、Xnの実際の合成と測定の時間を削減する。さらにその機械学習を行い、新仮想分子(N1, .. Nn)を設計する。 【課題2】フロー光誘起電子移動反応法による新規アモルファス固体性有機半導体の合成ーー①バッチ光有機合成 まず一般的な光バッチ法で新仮想分子Nnを合成する。本研究では合成戦略として、6π環化―芳香族化反応を積極的に活用できる分子に的を絞る。この反応は機構こそ違えど光(Mallory反応)でも熱(Scholl反応)でも達成可能である。本研究ではこの反応の採用で、効率的に結果を出していく。②フロー光有機合成 次にフロー光有機合成を検討する。さらにナンバリングアップと光反応用新型フローリアクタの開発により、有機半導体の大量合成の革新的効率化を図る。 【課題3】μSIMとμEXPの比較による総括ーー合成した幾つかのNnで、μSIMとμEXP の一致度を検証する。 高い割合で一致すれば、μSIMを用いる機械学習の高い信頼性が証明され、この【課題3】の必要性もなくなり、次世代MIの成功例となる。問題があれば【課題1】にフィードバックを掛け、再検討する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、基質3の数種類のアルキル誘導体の合成とX線結晶構造解析、薄膜偏光顕微鏡観察、アモルファス固体性有機半導体としての性能を評価を行う。また、これらの成果の英語論文発表を行う。 さらに新仮想分子Nnとして別の分子を案出し、これまでと同様に、新規理論を基にした仮想分子群の模擬実験データの機械学習を行い、有機半導体の機械学習そのものの効率化を図る。
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