本研究では、膜内外の電子・エネルギー移動を可能とする、電子伝達人工ベシクルの設計を提案する。脂質二分子やタンパク質などを組み合わせた人工二分子膜はライフサイエンス分野を中心にセンサや薬剤、バイオリアクターなどへの研究開発が盛んに行われている。一方、自然界に目を向けると、ミトコンドリアの内膜や微生物などが有する二分子膜では、イオンや分子の取り込み以外に膜表面もしくは膜内外に電子を伝達する電子伝達タンパク質を有している。例えば微生物では膜中に電子伝達可能なタンパク質であるマルチヘムシトクロムを有しており、膜外から電子、つまりエネルギーを得るもしくは放出することができる。微生物ではこの電子移動を利用して同種・異種の微生物間のコミュニケーションにも利用している。そこで本研究では、電子伝達可能な両親媒性分子を合成することで、電子伝達つまりエネルギー移動が可能な無細胞分子システムを構成し、電子伝達を介したベシクル内外のエネルギー移動の制御に挑戦する。さらに、ベシクル中に酸化還元物質を導入し、電極と組み合わせることで、電子伝達可能な無細胞分子システムから成る充放電可能な超大容量レドックスキャパシタの構築を目指す。 最終年度である2年度では、初年度に合成したフタロシアニン誘導体を、電極触媒として用いることで高い出力を有するバイオ燃料電池(微生物燃料電池)が達成された。これは、フタロシアニンの官能基を制御することで実現したものである。また、配位子が導入された鉄フタロシアニンの電子伝達能を評価し、電極触媒として評価したところ高い触媒活性が確認された、電池としても高い性能を有することを実証した。最後に、グループ内共同研究を通して、得られたフタロシアニンを人工二分子膜への導入を試験し、フタロシアニン存在下で人工二分子膜の作製できることは確認できたが、膜中への導入には至らなかった。
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