研究領域 | 生物を陵駕する無細胞分子システムのボトムアップ構築学 |
研究課題/領域番号 |
22H05414
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
石川 聖人 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 准教授 (70750602)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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キーワード | ナノファイバータンパク質 / 人工細胞 / リポソーム / バイオフィルム |
研究実績の概要 |
本研究では、本来は生きた微生物細胞の集合体であるバイオフィルムを、人工細胞を用いた分子システムとしてボトムアップ構築することを目指している。直径約1 μmの細菌サイズのリポソームを人工細胞とし、これを人為的に集合させることに取り組んだ。具体的には、細菌の細胞凝集に関与するナノファイバータンパク質AtaAの両末端にSNAPタグを融合したタンパク質を設計し、大腸菌細胞質内で発現させた。この組換えタンパク質は約180 nmの線状タンパク質であり、分子量は単量体で300 kDaを超え、会合して三量体化すると1 MDa弱になる巨大タンパク質である。一般に、大腸菌発現系では100 kDa以上のタンパク質を生産することは困難が伴うとされているが、代表者は可溶化バッファーと精製条件を詳細に検討することで、天然構造を保ったまま高純度で精製することができた。この精製タンパク質とベンジルグアニン基で修飾された脂質を含むリポソームを反応させ、特異的にリポソーム表面を覆うことができた。また、研究開始時には計画していなかったことではあるが、特定のリポソーム同士を集合させる方法論の開発に向け、そのベクターコンストラクトの構築と組換えタンパク質の発現精製を開始した。 論文発表として、AtaAの宿主細菌であるAcinetobacter属細菌Tol 5株が、細胞増殖期依存的にAtaAファイバーを生産していることを明らかにした研究成果をJournal of Bioscience and Bioengineering誌に発表した。AtaAの接着機能ドメインを特定した研究成果をFrontiers in Bioengineering and Biotechnology誌に発表した。これらの成果はAtaAファイバーを組換えタンパク質として大腸菌発現・精製し、人工細胞バイオフィルムを構築するうえで重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノファイバー状のAtaA組換えタンパク質の特性を理解することができ、精製方法を確立することができた。このことにより、様々な長さの組換えAtaAタンパク質を高純度で精製できると期待している。AtaAの長さを人為的に変更することで、集合するリポソームの距離間を任意に制御できると考えている。両末端にSNAPタグを付加したAtaA組換えタンパク質で集合させたリポソームの解析までは至らなかったが、当初は予定していなかったアイディアを着想し、その準備を順調に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
両末端にSNAPタグを付加したAtaA組換えタンパク質で集合させたリポソームの状態をフローサイトメトリー、動的光散乱法により解析する。また、特定のリポソーム同士を集合させる手法の開発にも取り組む。以前の研究論文、構築した何にでもくっつく人工細胞(リポソーム)の上から、集合したリポソームを作用させ、三次元構造を有した集合体を固体表面上に作る。まずは、スライドガラス上に集合体を造り、その構造を共焦点レーザー顕微鏡で解析・確認する。領域内に設置された計測解析センターを活用し、領域参画研究者らと共同研究をすることで、効率的に研究を推進する。天然バイオフィルムでは様々な微生物が協奏的に働くことで、複雑な物質変換反応を達成する。このような機能を人工細胞バイオフィルムに付与するために、カスケード反応を構成する酵素群をそれぞれ異なるリポソームに内包し、働く人工細胞バイオフィルムの構築を行う。
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