研究領域 | 生物を陵駕する無細胞分子システムのボトムアップ構築学 |
研究課題/領域番号 |
22H05421
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
加藤 俊介 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (60909125)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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キーワード | 人工金属酵素 / 進化分子工学 / 無細胞分子システム / C-H結合官能基化 |
研究実績の概要 |
本研究は、高難度な不活性 C-H 結合の位置選択的官能基化をめざし、無細胞分子システムを活用した新規金属触媒をボトムアップ構築することを目的とする。具体的には、非天然の遷移金属錯体を補因子としてタンパク質に導入した「人工金属酵素」を構築し、無細胞条件下での指向性進化法を駆使した遺伝子工学的な改変を実施する。2022年度は、Cp*Rh(III)錯体を活性中心に有するキメラ型人工金属酵素を創出し、無細胞条件での指向性進化法を適用することで、芳香族C-H結合官能基化反応において高い触媒活性を示す新規生体触媒を開発することに成功した。指向性進化法により得られた人工金属酵素変異体は、芳香族C-H結合活性化を経由するアセトフェノンオキシムとアルキンの付加環化反応において、変異導入前と比較して40倍以上の触媒反応効率を示すことが判明した。加えて2022年度は、鉄コロール錯体を補因子としてミオグロビンに導入した人工金属酵素の開発も実施した。ミオグロビンのヘム結合サイトを構成する複数のアミノ酸残基を選定し、部位飽和変異導入によりランダム化することで、ABTSの酸化反応に対して高いペルオキシダーゼ活性を示す変異体を獲得することに成功した。この得られた変異体は、改変前の人工金属酵素と比較して、24倍高い反応初速度を示すことが判明した。また、2022年度は、効率的な人工金属酵素の指向性進化を実現するために、オリゴペプチド(Strep-tag II)を精製タグに用いた新たな無細胞分子スクリーニング手法を確立した。本手法は、安価なキチン粉末をクロマトグラフィー担体として用いて、人工金属酵素の指向性進化を細胞夾雑物非存在下で実現する強力な手法である。今後、この手法を最大限に活用し、進化分子工学による高機能金属酵素の開発に着手する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、高難度な不活性 C-H 結合の位置選択的官能基化をめざし、無細胞分子システムを活用した新規金属触媒をボトムアップ構築することを目的とする。2022年度は、目標の一つであった非天然ペンタメチルシクロペンタジエニル-ロジウム錯体を補因子とする人工金属酵素について、無細胞条件下での指向性進化法による改変を実施し、芳香族C-H結合活性化を経由するアセトフェノンオキシムとアルキンの付加環化反応における触媒活性を向上させることに成功した。また、鉄コロール錯体や鉄二核錯体を補因子とする他の人工金属酵素の開発も実施しており、今後、これら人工金属酵素の指向性進化法による改変も行う予定である。加えて、2022年度は、効率的な指向性進化の実現に資する基盤技術の開発にも精力的に研究を実施した。なかでも、Strep-tag IIを精製タグに用いた新規無細胞分子スクリーニング手法は、今後の研究展開を加速する基盤技術となることが期待される。以上の成果から、おおむね順調に進展しているとの評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策として、以下の2項目について特に重点を置き研究を遂行する。(i) 指向性進化の結果得られた上記のペンタメチルシクロペンタジエニル-ロジウム錯体、および鉄コロール錯体を含む人工金属酵素について、詳細な解析(X線結晶構造解析・速度論解析)を実施する。そして、指向性進化法により導入されたアミノ酸残基への変異が、非天然の金属錯体の触媒活性にどのように寄与しているのかを明らかにする。(ii) 2022年度に新しく構築した鉄二核錯体や非天然金属ポルフィリノイドを補因子とする人工金属酵素について、指向性進化法による改変を実施し、優れた触媒特性を示す変異体を獲得する。この時、指向性進化法のスクリーニングには、上記のStre-tag IIを精製タグに用いた新規無細胞分子スクリーニング手法を活用する。
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