本研究では合成高分子による分子二重膜を基板上に形成し、生体分子との分子認識を介したシステム的な応答挙動の達成を目標とした。前年度までに、リビング重合によりブチルアクリレートおよびジメチルアクリルアミドからなる両親媒性のブロックポリマーを合成し、QCM-Dのガラス基板上に膜の形成を確認した。それぞれのブロックが100量体ずつからなる組成が最も高いセンサー表面被覆率を示した。本年度はこのブロックポリマーに対してマンノース糖鎖を導入したものを2種類作製した。ひとつは糖鎖モノマーをジメチルアクリルアミド部分にランダム共重合したもの、もう一つはジメチルアクリルアミドの次にブロック重合したものである。これらを用いてQCM-Dセンサー基板上に高分子膜を形成し、標的タンパク質であるコンカナバリンAの結合挙動を評価した。結果として、糖鎖をランダム的に親水部に導入した高分子で作製した膜の方が、タンパク質に対して強い結合力を示した。またマンノース糖鎖に対して結合を示さない別のタンパク質(ピーナッツアグルチニン)では結合が見られなかったことから、たしかに糖鎖に由来するコンカナバリンの結合であることを確認した。結合に伴う粘弾性は、2種類の糖鎖高分子で差が見られなかったことから、作製した高分子膜の結合力の違いは動的な性質の差ではなく、糖鎖の提示様式の差であることが考えられた。 本研究の成果は国際論文として出版された。
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