これまで報告されている高度化された酵素法、合成生物学と酵素法を融合した手法(全細胞触媒法)、人工細胞工学の研究などを加味すると、人工細胞を用いた発酵生産を社会での活用可能なレベルに押し上げるためには少なくとも(1)作製コスト、(2)複雑な酵素反応の実現、(3)機能モジュール化による組み合わせ手法の確立、という3つの課題を克服する必要がある。そこで本研究では、この3つの課題を足掛かりに、社会活用レベルでの人工細胞醗酵法の確立を実現するボトムアップ構築原理は何か?という学術的な問いをボトムアップ構築原理の学理へと転換し、微生物による発酵生産を超越した応用可能・社会実装に資する分子システムをボトムアップ構築することを目的とした。 2023年度は(3)を重点的に行った。具体的には、多糖の分解、人工細胞への糖の取り込み、糖の代謝のモジュールを検討した。多糖の分解については、αとγの2種のアミラーゼを利用することで、マルトデキストリンや片栗粉から生化学システムで利用可能な糖が形成できることを確認した。人工細胞への糖の取り込みについては、蛍光タンパク質によるグルコース濃度センサーを用いてリポソームにおけるグルコース取り込み能を確認したところ、予想に反しトランスポーターの導入なしにグルコースが自発的に取り込まれることを確認した。しかし、再構成された解糖系をリポソーム中に封入したところ、なんらかの理由によりATP分解が促進され、解糖系による物質生産が回らないという問題が明らかになった。そこで、糖の代謝に関し、解糖系と転写翻訳系の共役系を再構成し、その動態を解析した。結果、解糖系上流のATP利用反応と、下流のATP合成、これらと共役したATPase反応の速度バランスが綱引きのように作用し、ネットバランスではなく動態として系の運命が変動することが示された。この点において2報の論文を投稿中である。
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