研究実績の概要 |
本研究では、電子物性を自在に設計できるパイ共役系有機分子を水素結合によってネットワーク化した単層および複層の結晶性2次元構造を構築し、グラフェンや金属酸化物の薄膜との複合材料へと展開して2.5次元物質科学の発展に貢献することである。結合の形成と解離が可逆的な非共有結合性の水素結合を用いて分子をネットワーク化することによって、構造欠陥の少ない結晶性分子層を構築できるが、自立した薄膜として取り出すことが困難である。より丈夫な水素結合ネットワークシート構造を構築するために、本年度は分子内の4か所、6か所、および8か所にカルボキシ基を有するビルディングブロック分子の合成を検討した。まず、3回対称性の3角形状π共役環状構造の各頂点に2つのカルボキシ基をもつ分子を、分子内に末端アセチレンとヨウ化アリール部位をもつ前駆体をPd(0)触媒を用いた薗頭・萩原クロスカップリング反応による環化3量化によって低収率ながら合成・単離することに成功した。さらにこの環状分子を結晶化することによって、分子が2次元状に水素結合したシートの積層構造を得た。この積層構造からのシートの剥離について検討中である。また、8か所にカルボキシ基を有する分子を、4か所に同基をもつ分子の2量化によって合成することを計画し、まず化学的に構造変換可能な置換基を5,6位に有する1,2,3,4-テトラキス(4-メトキシカルボニルフェニル)ベンゼン誘導体の合成を行った。現在、2量化による奥田カルボン酸誘導体の合成を行っている。一方、原料の加水分解により得られるテトラカルボン酸もまた、水素結合により分子が連結した1次元リボン状のネットワーク構造を形成することが分かった。
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