動物は、危険な状況を学習・記憶し、生き抜く能力をもつ。この様な動物の適応行動に必要な学習・記憶能は、加齢に伴い低下する。その原因として、神経ペプチドが加齢に伴い変化し、記憶低下の原因となることが示唆されている。しかし、記憶形成に関与する神経ペプチドが学習・記憶能を支える神経回路にどの様に組み込まれているか、また神経ペプチドと加齢性記憶障害との関与については不明な点が多い。学習記憶能を支える適応回路が明らかとなっているショウジョウバエの嗅覚連合学習系を用いて、行動遺伝学やトランスクリプトーム解析を組み合わせることで、神経ペプチドが学習・記憶機能を制御する神経基盤・分子機構を明らかにすることを目指してきた。 これまでに体系的スクリーニングにより記憶に関与することが示唆された神経ペプチドについて解析を進めてきた。今年度は新たに神経ペプチドAとその受容体が記憶の維持に必要であること、また受容体が特定のドーパミン神経細胞群で発現することが記憶の維持に必要であることをショウジョウバエ嗅覚連合学習系を用いて明らかにした。また神経ペプチドAの変異体個体では、神経シナプス関連因子の発現量が顕著に低下することから、神経ペプチドAがシナプス形成に関与している可能性が考えられる。さらに、老化や食餌内の栄養によって神経ペプチドAあるいは受容体の発現量が変化することが明らかとなった。それらが老化による記憶障害や栄養による記憶制御にそれぞれ関与している可能性が示唆された。
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