研究実績の概要 |
我々は普段、過去の経験を基にして試行錯誤的に物事を判断したり、次の状況を先読みしたりしながら最適な行動を模索している。このような行動戦略は拮抗的な関係にあり、それぞれの行動戦略にかかわる神経回路網機能の破綻により適応回路遷移が生じていることが推察されるが、その生物学的背景についてはほとんど明らかになっていない。本研究課題では、サル前頭眼窩野と線条体・視床MD核を結ぶ2つの神経経路間の拮抗的な作用が、先読みと試行錯誤のいずれの戦略を用いるかの選択にかかわっているという仮説のもと、その拮抗の破綻が引き起こす適応回路遷移の生物学的基盤を、①申請者らが確立した化学遺伝学的手法を用いた霊長類脳における経路選択的機能阻害法、②生理学的記録法、③rna-seqによる遺伝子の網羅的発現解析法を活用することにより解き明かすことを目的とし、実験を行った。具体的には、霊長類モデル動物であるサルに試行錯誤的、および先読み的な行動を要求する行動課題を遂行させながら、霊長類前頭眼窩野から線条体、および視床MD核へと至る神経経路を個々に化学遺伝学的に機能遮断を行った。その結果、霊長類前頭眼窩野から線条体、および視床MD核へと至る神経経路が、それぞれ試行錯誤的、および推論的に選択肢の価値の更新を行ううえで重要な役割を果たしていることを示す結果を得た(Oyama et al., 2024, in revision)。本研究の成果は、霊長類高次脳機能のシステム的理解に寄与するだけではなく、神経経路の機能異常を原因とする幅広い疾患の臨床研究への応用が期待される。
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