研究実績の概要 |
核膜孔複合体(NPC: Nuclear Pore Complex)は、核内のDNAへの唯一の分子輸送経路を提供するタンパク質複合体で、核と細胞質の間の分子輸送を調節し、DNAの情報ネットワークを選択的に制御します。申請者は、高速AFM(原子間力顕微鏡)を用いて、世界で初めてFG-NUPsが形成する核膜孔内部の液滴を可視化することに成功しました。さらに、申請者らは病態制御におけるNPCの機能調節メカニズムに関する研究も進めており、細胞の環境や状態に応じて核膜孔の組成が変化し、その機能が高度化することを明らかにしました。具体的には、がん病態に特異的なFG-NUPsの発現量や翻訳後修飾が、核膜孔を介した核と細胞質間の輸送選択性を変化させ、がん病態の進行を助長する遺伝子発現パターンを確立することが示されています。しかし、液滴は動的な高次構造体であり、その安定性は環境に大きく依存します。試料の調製が難しいことに加え、相分離を調べるための技術基盤が整備されていないため、生命現象の中核を成す選択的核膜分子輸送における液滴の動態や機能メカニズム、さらには病態に伴う液滴の変化については未解明の部分が多く残っています。本研究は、核膜孔の作動原理の基盤となる相分離の理解を深めるため、核膜孔内部に形成される液滴のナノ構造動態とその機能との相関を解明することを目的としています。2022年に我々の研究成果については、Cells, BBRC, JEV誌に発表した。また、西田先生のIn-cell NMR共同研究成果については、2023年Journal of Physical Chemistry Letters誌に報告されました。
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