一次繊毛は細胞のアンテナとして機能するオルガネラであり、その異常は繊毛病と呼ばれ、多様な重篤症状を引き起こす。これらの症状は、一次繊毛の形成や機能維持に重要な役割を果たす繊毛内タンパク質輸送(Intraflagellar transport: IFT)装置およびトランジションゾーン(Transition zone: TZ)の異常により引き起こされる。本研究では、IFT装置とTZのメゾスケール(20-500 nm)での構造-機能相関を解明することを目指した。 本年度は、繊毛病の原因でありトランジションゾーンに関与すると予想されるTMEM218を対象に研究を進めた。まず、CRISPR/Cas9技術を活用して不死化ヒト網膜色素上皮細胞(hTERT-RPE1)からTMEM218を欠損させたノックアウト(KO)細胞株を樹立した。繊毛の形成には大きな影響がなかったものの、繊毛に局在する膜タンパク質に異常が観察された。次にレンチウイルスベクターを使用し、野生型および繊毛病型遺伝子をKO細胞に導入し、表現型の違いを評価した。ジュベール症候群(JBTS)関連のTMEM218変異体を導入した場合、TZのバリア機能が回復したことが確認された。一方で、メッケル症候群(MKS)関連の変異体では回復が見られなかった。これにより、繊毛異常が疾患の重症度と相関していることが示唆された。 さらに、Ultrastructure expansion microscopy(U-ExM)を用いた条件検討を行い、IFTタンパク質が繊毛の基底小体で取る9回対称構造を明瞭に観察する方法を開発した。現在はこの手法を用いてIFT装置やTZの構造を超解像で観察し、それらの構造と機能の詳細な解析を進めている。
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