研究領域 | 新興硫黄生物学が拓く生命原理変革 |
研究課題/領域番号 |
22H05557
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
小金澤 禎史 筑波大学, 医学医療系, 助教 (80431691)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
|
キーワード | 硫化水素 / 呼吸 / 呼吸中枢 / 神経回路 / 時空間ダイナミクス |
研究実績の概要 |
硫化水素は毒ガスとして知られているが、近年、体内で合成された硫化水素および超硫黄分子が様々な生体システムの調節に関与していることが明らかになってきた。研究代表者は、先行研究において、脳全体での硫化水素の合成阻害は正常な呼吸運動の形成を妨げることを報告している。一方で、呼吸中枢は機能の異なる呼吸ニューロン群から構成されていることが知られている。その中でも、延髄呼吸中枢のニューロン群は、呼吸形成における主要なニューロン群であることが知られている。そこで、延髄呼吸中枢の各ニューロン群における硫化水素合成の機能的役割を検討した。 本実験では、脳内循環や酸素濃度が一定な条件で呼吸出力の変化を解析するために、ラットの経血管灌流標本を用い、呼吸出力変化に寄らずに脳内循環を一定に保った。中枢性の呼吸出力は、横隔神経および迷走神経の活動を記録することにより解析した。また、脳内にその発現が確認されている硫化水素合成酵素(cystathionine-β-synthase (CBS))の阻害薬を、延髄呼吸中枢を構成するBotzinger complex、Pre-Botzinger complex、ventral respiratory groupのそれぞれへ微量投与し、呼吸出力に対する影響を記録・解析した。 その結果、延髄呼吸中枢の各脳領域におけるCBS阻害薬投与は、阻害薬投与領域に特異的な呼吸出力の変化を引き起こした。このことは、脳内で合成された硫化水素は、延髄呼吸中枢の各脳領域において、異なる機能的役割を有していることを示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、呼吸中枢の硫化水素合成が、呼吸中枢を構成する機能の異なるニューロン群それぞれに果たす機能的役割、そして、それに基づいてもたらされる呼吸中枢の神経回路網の時空間ダイナミクスを包括的に明らかにすることを目的としている。既に、延髄呼吸中枢の各脳領域における硫化水素の合成阻害により、延髄呼吸中枢の各ニューロン群に対して、脳内硫化水素が異なる機能的役割を持っていることが明らかとなっている。したがって、本研究は、当初の予定に対して、おおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
呼吸形成の主要ニューロン群である延髄呼吸中枢における神経回路網の時空間ダイナミクスをより詳細に捉えるために、ラットの経血管灌流標本を用い、約1,000チャネルからなる多電極シリコンプローブを延髄呼吸中枢へ留置し、呼吸中枢内硫化水素合成の薬理的調節下において、呼吸中枢のマルチニューロン活動の同時記録を行う。さらに、記録されたニューロン活動に対して数理モデルおよび機械学習によるアルゴリズムを用いたクラスタリングを行った上で、多変量解析および状態空間解析を行うことにより、呼吸中枢の時空間ダイナミクスの全体像を呼吸出力変化と共に解析する。
|