本研究課題では、タンパク質中のシステイン残基の側鎖チオールSH基に硫黄原子が付加されSSH基となる「過硫化」状態が、生体内に幅広く存在し、様々な生命現象に関与するとの近年の知見の蓄積を受けて、このようなタンパク質の過硫化が、タンパク質の立体構造にどのような影響を与えることで、その機能制御を行うのかを明らかとしようとしてきた。この目的の元、既に過硫化状態をその生理機能に利用することが分かっている、大腸菌のtRNAのU34の2位の硫黄修飾に必要とされるTusタンパク質群のひとつ、TusEを対象として、溶液NMR法による構造生物学的研究を実施した。TusEは、運動の自由度が高いC末端領域のC108に、積荷硫黄原子を過硫化状態として保持することが知られている。NMR解析の結果、TusEはC108を過硫化されると、C末端領域と構造形成領域の間に相互作用を形成することが明らかとなった。網羅的な変異体解析より、C末端領域との相互作用が減弱する変異体を取得し、その生化学的なアッセイを行ったところ、TusE遺伝子を欠損した大腸菌株に当該TusE変異体の遺伝子をプラスミドとして導入した時の、tRNA硫黄修飾量およびこれに依拠した大腸菌の生育速度は、野生型のTusEを導入した時と比較して有意に小さいことが確認された。したがって、過硫化状態におけるTusEのC末端領域の相互作用形成は、積荷硫黄原子を周囲の酸化性物質等から保護し、tRNAへの硫黄運搬を高効率化する役割を担うと結論した。同成果は、査読付き論文として国際誌に発表を予定している。 また、領域内で複数の共同研究に着手し、うち1件は現時点で論文発表を行った。
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