研究実績の概要 |
本研究では, 2022年度に独自技術に基づき発見したアポトーシス時の形質膜での先立ったカスパーゼの活性化の分子基盤及び生理機能の解明を目指した. 2023年度は, 先立った活性化の責任カスパーゼを探索し, Caspase-7の5つのアイソフォームのうち2つがすることを見出した. また, アイソフォーム間の比較から, その責任領域がN末端に存在する非ドメイン領域であることを見出した. 当該領域はN末端側から, 負電荷アミノ酸クラスタ, カスパーゼ切断部位, 正電荷アミノ酸クラスタからなる. ここで, 先立った活性化に対して, 正電荷アミノ酸クラスタが必要であること, 負電荷アミノ酸クラスタが反対に抑制すること, カスパーゼによる切断が必要であることを発見した. 正電荷アミノ酸クラスタは, 負電荷脂質と相互作用しうる. そこで, 形質膜内層に存在する負電荷脂質ホスファチジルセリンをマスクしたところ, 先立った活性化が抑制された. 以上の結果から, Caspase-7非ドメイン領域と形質膜内層のホスファチジルセリンとの相互作用によって, 先立った活性化が駆動される可能性を示した. アポトーシス時にホスファチジルセリンは外層へと露出され, 貪食細胞に対しての"eat-me"シグナルとして機能する. ここで, 先立った活性化が消失した変異体細胞では, アポトーシス時のホスファチジルセリンの外層への露出及び貪食感受性が低下した. したがって, 先立った活性化はアポトーシス細胞の速やかな除去に寄与することを示唆する. 本研究は, カスパーゼの活性化が細胞内で順序立って制御されていること, その制御がカスパーゼ自身の非ドメイン領域に依存すること, さらに, 細胞内で順序立ったカスパーゼの活性化がアポトーシス細胞の死後の運命を制御することを発見したという点で意義のある研究である.
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