本研究課題は、機能の全く異なる非膜オルガネラ間を遷移する仕組みに関わる新規非ドメイン型ハブ分子と低分子化合物の探索を行い、その分子動態およびその細胞機能と生理学的意義の解明を行うものである。我々は、神経変性における病原性凝集体形成の原因遺伝子をコードするFUS蛋白質が、DNA損傷およびDNA-PK活性の阻害条件下で、まず核小体へリクルートされ、その後、細胞質ストレス顆粒へ遷移、局在化することを見出した。特に、この細胞質ストレス顆粒への局在は、DNA-PKによるFUSのN末に存在する12箇所のリン酸化反応に感受性であることが分かった。リン酸化ミミック型のVenusタグFUS-12Asp変異体では、本刺激においてもストレス顆粒への移行を示さない事、また非リン酸化ミミック型のFUS-12Ala変異体では、DNA損傷刺激のみでもストレス顆粒への移行を示す。一方で、FUSの核小体への移行性は、FUSのリン酸化あるいは非リン酸化状態への依存性を示さない事が分かった。さらに、Venus-FUS-P525L融合蛋白質およびストレス顆粒マーカーであるtdTomato-G3BP1融合蛋白質の安定発現細胞株を用いて、DNA損傷およびDNA-PK阻害下で起こるストレス顆粒の係留を阻害する低分子化合物のスクリーニングを行い、23種類を取得した。得られた低分子化合物群は、DNA損傷およびDNA-PK活性の阻害条件下において、内在性FUSのストレス顆粒への移行を阻害する一方で、ストレス顆粒形成自体には影響を示さないことを実証した。さらに、FUS選択的にFUS蛋白質の細胞内動態を制御する低分子化合物と非ドメイン型ハブ分子に着目した解析を行った結果、非膜オルガネラ間遷移に関わるタンパク質分解系やリソソーム機能、抗酸化作用との関連を示す結果が得られてきた。
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