研究領域 | 非ドメイン型バイオポリマーの生物学:生物の柔軟な機能獲得戦略 |
研究課題/領域番号 |
22H05592
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
西山 正章 金沢大学, 医学系, 教授 (50423562)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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キーワード | 液-液相分離 / 発がん |
研究実績の概要 |
細胞増殖や分化過程においてクロマチン構造はダイナミックに変化することで、細胞形質の形成や維持に寄与している。このクロマチン構造の変化や維持にはクロマチンリモデリング因子が大きく関与しており、これらの分子の異常は高次クロマチン構造の破綻へとつながり、多くは「がん化」という転帰を迎える。近年、核酸やタンパク質によって構成される膜のない構造体形成(液-液相分離)を介してクロマチン構造が維持・複製されていることが明らかになりつつある。しかし、この相分離とそれによるクロマチン構造維持にクロマチンリモデリング因子がどのように関わっているかは不明である。申請者らのグループはクロマチンリモデリング因子CHDファミリーの研究において長年にわたり世界をリードしてきた。このファミリーの代表分子であるCHDはがんと強い関連性があり、その変異は前立腺がんで10-26%と非常に高頻度で認められている。今回、われわれはCHDの腫瘍抑制効果には天然変性領域を介した相分離による局在化・場の形成が必要なことを明らかにした。CHDのカルボキシル末端を短縮するフレームシフト変異ががんで頻発することから、高速原子間力顕微鏡の観察によりCHDのカルボキシル末端に天然変性領域があることを発見した。また、CHDはH3K4me3ヌクレオソームへ集積し、そのカルボキシル末端配列により液-液相分離することで他のCHDを動員する。さらに、カルボキシル末端のフレームシフト変異をもつがん細胞における天然変性領域の回復は、転写パターンを変化させ、増殖を抑制する。われわれの結果は、相分離能の改善を標的とした新たながん治療法を提供する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
われわれは、CHDが相分離凝集体を形成しており、がんにおけるCHDのホットスポット変異(天然変性領域の欠失)を模倣したCHD変異体は相分離凝集体を形成しなくなることを明らかにした。これらの知見は当初の研究目的に適っており、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
われわれが作製した相分離不全型CHD発現細胞株を用いてRNA-seqを行い、遺伝子発現がどのように変化しているのかを明らかにする。またCHD-APEXノックイン細胞株を用いて相分離凝集体内に存在する核酸やタンパク質を特定し、これらの分子とCHDとの相互作用を検証する。
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