公募研究
我々は新規ヒストン修飾制御因子として核小体タンパク質Xを同定し、分子XがヒストンH3K27me3修飾を制御し、乳癌の形成・進展に重要な役割を担うことを見出した。興味深いことに分子Xは天然変性領域(IDR)を持つが、その役割やヒストン修飾制御における意義は不明である。本研究では下記数点に着目し、解析を行なった。(1)分子XのIDRがクロマチンとの相互作用に果たす役割細胞分画実験から、分子Xはクロマチン結合分画にも局在することが明らかとなった。IDR欠損体を含む各種欠損体を用いた実験から、IDRは他の領域と協調してクロマチンとの結合に必要であることが明らかとなった。分子XがIDRを用いてクロマチンと相互作用するゲノム領域を特定するため、FLAGタグを付加した分子Xの欠損体をHEK293T細胞に発現させ、CUT&RUNを試みたが、現状としてバックグラウンドが高く、実験系の改善を図っている。また分子Xがクロマチン構造やヘテロクロマチン化に与える影響を評価するべく、ATAC-seqを現在試みている。(2)分子X結合タンパク質の探索と機能解析これまでの解析から、分子XはH3K27me3修飾酵素群と相互作用することが明らかになったが、さらにその性質を探るため、免疫沈降および質量分析による結合分子の同定を行なった。その結果、425個の候補分子を得た。分子Xは核小体タンパク質であるため、候補にはリボソーム関連分子が多く含まれたものの、興味深いことに新規メチルトランスフェラーゼや、既知のヘテロクロマチン関連因子などが含まれていた。これら2つの因子についてクローニングを行ってHEK293T細胞に発現させ、分子Xとの結合を免疫沈降により確認した。すでにこれら2つの因子についてノックアウト細胞の樹立に成功しており、今後ヒストン修飾やクロマチンリモデリングに及ぼす影響を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
分子X結合タンパク質の探索と機能解析は当初の予定より大幅に進行しているものの、CUT&RUNのサンプル調整などで遅れが生じているためゲノムワイドの解析が計画よりやや遅れている。よって(2)とした。
分子Xとクロマチンの相互様式についてさらに生化学的解析を進行する。また、分子Xがクロマチンリモデリングに与える影響を明らかにするため、CUT&RUNの改良およびATAC-seq解析を継続する。また、分子Xがヘテロクロマチン化および核小体機能に与える影響を評価するため、電子顕微鏡を用いた核内の解析を行う予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
npj Vaccines
巻: 7 ページ: 16-16
10.1038/s41541-022-00439-3