研究領域 | 非ドメイン型バイオポリマーの生物学:生物の柔軟な機能獲得戦略 |
研究課題/領域番号 |
22H05614
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
椎名 伸之 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 准教授 (30332175)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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キーワード | RNA顆粒 / 天然変性領域 / eIF3a / IDR / 神経活動 / ダイナミクス / 局所的翻訳 |
研究実績の概要 |
神経RNA顆粒に局在する翻訳開始因子eIF3aは、C末端に天然変性領域(IDR)を持つ。そのIDRは生物の複雑化に伴って伸長しており、脊椎動物では酵母に比べ約400アミノ酸長いことが知られている(vertebrate IDR, vIDR)。本研究の目的は、vIDRが神経RNA顆粒の機能においてどのような役割を担うかを明らかにすることである。 本研究では、eIF3aのvIDR欠失変異体をマウス脳由来の神経初代培養細胞にGFP融合タンパク質として発現させ、RNA顆粒における変異体のダイナミクスを計測した。また、SunTagシステムを用いて、樹状突起における翻訳を時空間的に可視化し、欠失変異体が翻訳に与える影響を解析した。さらに、KCl添加によって神経活動を誘発させた際のダイナミクス変化や翻訳変化に対してvIDR欠失がもたらす影響について解析を行った。 野生型eIF3aは神経細胞においてRNA顆粒に局在し、そのダイナミクスは低く、樹状突起における翻訳も低い状態が維持された。しかし、神経活動を誘発すると、eIF3aのダイナミクスが増加して顆粒外にも拡散し、樹状突起における翻訳も上昇した。この翻訳はeIF3aが濃縮したRNA顆粒とは異なる場所で起こった。一方、eIF3aのvIDRを欠損させた変異体(eIF3aΔvIDR)では、顆粒におけるダイナミクスが野生型に比べて上昇し、それに伴って翻訳も上昇した。この翻訳は、eIF3aΔvIDRが濃縮したRNA顆粒と一致する場所で起こった。さらに、神経活動を誘発しても、eIF3aΔvIDRのダイナミクスに変化は見られず、翻訳にも変化が認められなかった。以上の結果から、eIF3aのvIDRが、RNA顆粒におけるeIF3aの流動性制御と局所的翻訳制御に、神経活動依存性を付与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、以下の2点について明らかにすることを目的としている。 1) 神経活動に伴うeIF3aの流動性変化を担うvIDRの分子デザインの解明 2) eIF3aの流動性摂動によるRNA顆粒における局所的翻訳及び学習・記憶への影響 今年度の研究により、eIF3aのRNA顆粒におけるダイナミクス(流動性)と局所的翻訳制御の関係を見出すことができた。さらに、神経活動に伴う流動性変化と局所的翻訳変化の関係についても、eIF3aのvIDRの関与を見出すことができた。これらの知見は1), 2)の目的の一部を達成したものであり、本研究は順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
1) 神経活動に伴うeIF3aの流動性変化を担うvIDRの分子デザインの解明 eIF3aのvIDRは、前半のリピート領域と後半の非リピート領域から成り、両者は似たアミノ酸組成で構成されている。そして両者とも神経活動に依存したeIF3aの流動性上昇に必要である。そこで、リピート領域のみを2つ、あるいは非リピート領域のみを2つ持つようなeIF3a変異体を作製し、似たアミノ酸組成であっても配列によってeIF3aの流動性調節が変化するかどうかを調べる。さらに、神経活動に依存したvIDRの翻訳後修飾についても調べる。具体的には、リン酸化やメチル化がリピート配列に依存するかどうか、そしてその修飾が流動性にどのような影響を与えるのかを検討する。これらの実験により、神経活動に伴うeIIF3aの流動性変化を規定するアミノ酸組成や配列のデザインルールを解明し、神経細胞におけるeIF3aによる翻訳制御の理解を目指す。 2) eIF3aの流動性摂動によるRNA顆粒における局所的翻訳や学習・記憶への影響 1の知見に基づき、eIF3aの流動性を摂動する変異体を神経細胞に導入し、その結果生じるmRNA局在や局所的翻訳の神経活動依存的な変化への影響を定量的に解析する。また、eIF3aのvIDRやvIDRリピート領域の生体の脳機能における役割を解析するために、これらの領域の欠損マウスをCRISPR/Cas9法を用いて作出する。
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