研究領域 | 競合的コミュニケーションから迫る多細胞生命システムの自律性 |
研究課題/領域番号 |
22H05620
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小川 基行 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特任研究員 (10903198)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞競合 / FGF21 / 細胞間相互作用 / NO / 細胞死 / ゲノムワイドスクリーニング |
研究実績の概要 |
上皮組織では、異なる性質を獲得した細胞が近接した同種の細胞に認識され、組織から選択的に排除される細胞競合という現象が起こることが明らかにされてきた。この現象は、多細胞生命システムが自律的に自身の構造・機能を最適化する恒常性維持機構の一つであると考えられるが、その分子基盤の全貌は特に哺乳類において未解明である。本研究では、独自に発見した液性因子FGF21による細胞競合機構を足掛かりとしたCandidateアプローチと哺乳類細胞競合系を用いた大規模スクリーニングによる網羅的なアプローチを統合することで、細胞競合を制御する分子基盤の全容解明を目指す。 本年度は、がん変異細胞におけるFGF21の発現誘導機構に着目して解析を進めた。その結果、がん変異細胞で産生が亢進する一酸化窒素Nitric Oxide(NO)がFGF21の発現誘導に必要であることを見出した。NO産生酵素を阻害すると細胞競合が抑制されたことから、血管拡張や細胞死誘導等で働くNOがFGF21を介して細胞間の競合的コミュニケーションに働くことを見出した。またスクリーニングでは、哺乳類細胞を用いた新たな細胞競合系を構築した。具体的には、ドキシサイクリン添加依存的にSrcの活性化変異体を発現する細胞株を樹立し、正常細胞と混合培養した際に選択的に排除される様子を観察した。さらに、スクリーニングの実施に向けて、自動イメージアナライザーを用いて細胞競合を迅速かつ定量的に評価可能な新たな解析系を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FGF21の発現誘導機構として、血管拡張や細胞死誘導等で働くNOの関与を発見し、細胞間コミュニケーションにNOが働くという、NOの新たな生理学的意義を見出した。さらに、ゲノムワイドスクリーニングの実施に向けた準備が順調に進んでおり、次年度スクリーニングの実施とその後の解析が行える目処がついた。
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今後の研究の推進方策 |
NOによるFGF21発現誘導機構の解析を進めるとともに、複数の哺乳類細胞競合系に共通して関与するか検討する。また、本年度作製した新たな細胞競合系を用いてゲノムワイドスクリーニングを実施し、細胞競合制御因子を網羅的に探索・同定する。同定した因子について、異種細胞間の認識機構、認識からのシグナル伝達、敗者細胞の排除など様々なステップのうち、どの部分に関与するのか解析する。
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