本研究では、独自に発見した液性因子FGF21による細胞競合機構を足掛かりとしCandidateアプローチと哺乳類細胞競合系を用いた大規模スクリーニングによる網羅的なアプローチを統合することで、細胞競合を制御する分子基盤の全容解明を目指した。 前年度までに、がん抑制遺伝子Scrib欠損細胞で産生が亢進する一酸化窒素Nitric Oxide (NO)が細胞競合誘導因子FGF21の発現誘導に必要であり、NO産生酵素の阻害剤の処置により細胞競合が抑制されることを見出した。本年度は、NO産生が亢進する分子機構を解析した。その結果、Scrib欠損により発現上昇する一酸化窒素産生酵素NOS3がNO産生を亢進させることを見出した。さらに、RasやSrcの活性化変異体を発現したがん変異細胞が排除される細胞競合においてもFGF21が必要であることが示された。したがって、血管拡張や細胞死誘導等で働くNOがFGF21の発現誘導を介して細胞間の競合的コミュニケーションを惹起することを見出すとともに、がん抑制型細胞競合に共通してFGF21が関与する可能性を示した。 ゲノムワイドスクリーニングに関しては、前年度までに細胞競合が効率良く起こる新たな哺乳類培養細胞系を構築するとともに、自動イメージアナライザーを用いて細胞競合を迅速かつ定量的に評価可能な新たな細胞競合検出系を構築した。本年度は、樹立した細胞及び構築した解析系を用いてスクリーニングのポジティブコントロールとなる遺伝子を探索した。その結果、Scrib欠損細胞と同様に今回新しく樹立した細胞株においてもFGF21が細胞競合の誘導に必要であることが分かり、FGF21がスクリーニングのポジティブコントロールとなることが示された。また、スクリーニングを実施する細胞濃度やタイムコース等、スクリーニング条件の最適化を進めた。
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