造血幹細胞は、微小環境(ニッチ)内において互いに競合状態にあり、自律的に造血の恒常性を維持している。この「幹細胞競合による組織の最適化」は、ライフステージにより変化すると考えられるが、その実態については理解されていない。最近我々は、加齢に伴って現れる異質な造血幹細胞がニッチを変化させることによって適応度を増し、造血幹細胞エイジングが進展することを見出した。本研究では、組織の最適化に反した造血老化の進展に寄与する幹細胞競合パラドックスを理解し、その分子機構を解明することを目標とする。具体的には、成熟期から老齢期における造血幹細胞の変化に焦点を当て、造血幹細胞エイジングの進展に寄与する“ニッチ変容を介した幹細胞競合の分子機構”を明らかにする。さらに、競合的コミュニケーションを司る環境因子による、幹細胞競合制御機構を解明する。幹細胞競合を制御する環境因子を特定し、競合的コミュニケーションを変化させることにより造血幹細胞エイジングの制御を目指す。 令和5年度は、シングルセルRNA-seq解析を詳細に行った結果、加齢に伴って消失する細胞・優勢となる細胞が存在し、造血幹細胞・ニッチ細胞共に大きく変化していることが明らかとなった。また、幹細胞競合を制御する環境因子を理解するためにIL-10の影響について解析を行った。結果として効果が確認できなかったものの、ニッチ細胞のシングルセルRNA-seq解析によりいくつかの候補因子を見出した。今後機能解析を行う予定である。
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