研究領域 | 競合的コミュニケーションから迫る多細胞生命システムの自律性 |
研究課題/領域番号 |
22H05639
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
池田 達郎 基礎生物学研究所, 生殖細胞研究部門, 特任助教 (60803963)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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キーワード | マウス / 始原生殖細胞 / 精子幹細胞 / 精細管 / バーコード / クローン動態 / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
2022年度は、誘導直後(E6.5)の始原生殖細胞(PGCs)にバーコードを導入したのち、精巣に移動したPGCsをFACSソートしてシングルセルRNA・バーコード-seqを行なった。これに先立つ細胞分離の条件検討で当初の想定より時間がかかったが、年度末にライブラリを作成完了したのち、年度明けにシーケンス発送することができた。 これまでSequelによるシーケンスデータから推定していたクローンサイズ分布を確証するため、バーコードを導入した雄成体の精子幹細胞をFACSソートし、Sequelシーケンスおよびシングルセルでのサンガーシーケンスで配列を決定・比較した。その結果、バーコードの頻度は正に比例し、推定が確証されると共に、クローンサイズの不均一性が支持された。 精巣に移動したPGCsの不均一なクローンサイズが獲得される過程を理解するため、PGCsが遊走しているE8.5の時期に胚6個体の後半部を取得してバーコードのシーケンシングを行なった。すると、E8.5においてはクローン分布がより均一であるとともに、E12.5と比べ2倍以上の種類のバーコードが含まれていた。従って、PGCsの遊走期にはクローンが不均一に拡大すると共に種類数が減少することが判明した。 精巣に移動したPGCクローンは幹細胞を生じたのち生後1年までクローンの種類数とサイズ分布が安定になる。この安定化の要因を理解するため、一精巣を構成する計約2mの精細管を数十本の断片として取得し個別にバーコードシーケンスした。その結果、精巣全体は20種類以上のバーコードを含む一方で、個々の精細管断片は少数のバーコードしか含まず、10cm以上の連続した管でも2から6種類程度のバーコードが占有していた。精細管の一次元構造がクローンを局在・安定化している可能性が浮上した。 以上を含むこれまでの結果を国内外の学会で発表し、論文の執筆を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
十分にシングルセルに細胞を解離する実験条件の検討に当初の予想より時間がかかったが、予定していた条件でマウス実験とライブラリ作成を完了することができた。 それと並行して、発生初期におけるクローンの削減・不均一拡大とそれ以降の安定化を実現する細胞分布を示唆する実験結果を得て、論文の執筆を開始することができた。
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今後の研究の推進方策 |
シングルセルRNA・バーコード-seqのデータを受け取ったら、PGCsにおける遺伝子発現の不均一性を解析し、同じバーコードを持つクローンごとに発現の偏りを示す遺伝子があるかを探索する。また、クローンの細胞数(クローンサイズ)との関係性を検証する。クローンと相関し、かつクローンの挙動に影響を与えると想定される遺伝子が見出されたら、免疫染色やレポーターマウスの観察などによって発生過程における発現変動・分布を測定する。 PGCsが遊走して精巣に至る過程、および精巣に入ったPGCsが精細管に入って幹細胞を生み出す過程において、少数の仮定をもとに複数の数理モデルを設計して、実際にどのような細胞の挙動が観察したクローンの削減・不均一拡大とその後の安定化に寄与しうるかを検証する。モデルから予想された細胞の挙動・分布を、蛍光レポータータンパク質によるクローンの標識・追跡により検証する。 その他必要なデータを補完し、まずは胎仔から次世代に至る一連のクローン動態に関して論文にまとめて発表を目指す。
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