2023年度はまず2022年度末に作成した、誘導直後(E6.5)にバーコード標識したのち精巣に移動した始原生殖細胞(PGCs)のシングルセルRNA・バーコード-seqライブラリをシーケンスしてデータ解析を行なった。その結果、PGCsにおける不均一な遺伝子発現を見出し、その一部はPGCsの発生の進行度合いを反映していることが分かった。このデータにバーコード情報を重ねると、同じバーコードのPGCクローンでは上記の遺伝子群の発現が近似していた。これは、何らかの共有因子がクローンの遺伝子状態を規定することを示唆している。見出した遺伝子群のうちクローンの挙動に影響すると予想された遺伝子のタンパク質に対する抗体を購入し、その発生過程における発現分布・変動の観察を始めた。 これまで、PGCsの遊走期にクローンの種類数の減少と不均一な拡大が起こることを見出していた。実際にどのような作用がこのクローン分布変化を駆動しうるのかを調べるため、少数の仮定を基に複数の数理モデルを設計した。その結果、一部のPGCsが生存しながらも将来の精巣に寄与しないことを仮定したモデルで初めて、観察されたクローン分布の変化を再現できた。この仮定の蓋然性を検証するため、CAG-CAT-EGFPマウスを用いてE6.5でPGCsをEGFP標識し、E7.5およびE8.5の胚内におけるEGFP陽性細胞の分布を解析した。その結果、E7.5ではエピブラスト後端に存在していたEGFP+細胞のうち、E8.5で約半数は前側の原腸に移動しているのに対し、残りは胚後方の尿膜周辺に移動して胚体外中胚葉への寄与が見られた。このようなPGCsの運命転換がクローンの分布変化を駆動することが示唆された。 以上の結果を含む発生期から次世代に至るまでの生殖細胞クローン動態に関して、2023年度は国内外の学会等で複数の発表を行い、論文執筆も大きく進展させた。
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