公募研究
臓器の組織は、細胞が代謝や修復により自律的に入れ代わることで、恒常性のある多細胞システムを保っている。その中心には組織幹細胞(以下、幹細胞)とそれを支えるニッチ細胞があり、特にニッチ細胞の供給する微小環境は幹細胞の自己複製と分化のバランスを制御し、多細胞システムに大きく影響する。そのため微小環境の分子実体と、幹細胞が微小環境を奪い合う幹細胞競合を理解することが重要である。本研究で我々は、幹細胞と相互作用するニッチ細胞を網羅的にスクリーニングする系を新規開発し、特に呼吸器の幹細胞を支えるニッチ細胞を探索する。そのために我々は、標的細胞に隣接する細胞を蛍光標識できる”Stem cells’ Neighbors Labeling Reporter (SNLR)”を開発した。本研究では申請者が専門とする呼吸器の幹細胞と損傷再生の実験系を利用する。呼吸器は、人体で最も外環境に曝露される内蔵と考えられている。呼吸器上皮は外環境から侵入した刺激物(ウィルス、細菌、喫煙、汚染物質など)に晒され、頻繁に損傷を受ける。そのため、呼吸器の上皮組織は障害に対応する再生能力を持ち、特に幹細胞が再生を支えている。現在までに培養細胞、および肺胞オルガノイドを使った実験で、SNLRペプチドが標的細胞のbasolateral サイドへ分泌され、隣接細胞を蛍光標識することに成功している。SNLRレポーターを用いて、AT2細胞特異的にSNLRを発現するマウスを作成する予定である。一方で、個体だけではなく肺胞オルガノイドを利用して、SNLRレポーターを発現するオルガノイドを肺損傷マウスに移植する実験を行い、再生時の幹細胞ニッチを同定する研究も進めている。
2: おおむね順調に進展している
SNLRレポーターの機能を確認するため、293T細胞にトランスフェクションし、in vitro実験でレポーター活性を確認した。トランスフェクションされた細胞でGFP/mCherry蛍光が、隣接細胞ではmCherry蛍光だけが観察され、SNLRが想定通り隣接細胞を標識できることが確認できた。そこで、このコンストラクトをマウスのRosa遺伝子座に導入した遺伝子改変マウスの作成を進めた。現在進行中である。加えて、肺胞オルガノイドをマウス肺に移植する実験を進めている。まず、マウスAT2細胞を単離し、レンチウィルスを使ってSNLRレポーターをトランスダクションで導入した。マトリゲル中で培養することで、肺胞オルガノイドを作成し、レポーターの発現を確認した。すでに確立している移植技術を使って、SNLRを発現する肺胞オルガノイドを、ブレオマイシンで肺障害を起こしたマウスの肺に移植した。これまでに、蛍光を持った肺胞オルガノイド由来の細胞が生着していることを確認できている。周辺細胞が標識されてるかどうか、今後詳細に確認を進め行くつもりである。
作成を進めているSNLRレポーターノックインマウス(SNLR-KI マウス)のコロニーを増やし、AT2細胞特異的にCreERを発現するSftpc-CreERと掛け合わせ、次世代にタモキシフェンを投与することで、AT2細胞だけでSNLRレポーターを発現する様になるマウスを作成する。SNLR-KI マウスにおいて、AT2細胞の周りにいる特別な間充織細胞を同定し、その遺伝子発現の特徴を解析する。その特徴から、特別な間充織細胞だけを標識できるトランスジェニックマウスを作成し、ニッチ細胞を同定する。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件)
Nature communications
巻: 14 ページ: 4956-4956
10.1038/s41467-023-40617-y
Stem cells (Dayton, Ohio)
巻: 41 ページ: -
10.1093/stmcls/sxad044
Nature protocols
巻: 17 ページ: 2699-2719
10.1038/s41596-022-00733-3