研究領域 | サイバー・フィジカル空間を融合した階層的生物ナビゲーション |
研究課題/領域番号 |
22H05653
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 真也 京都大学, 高等研究院, 准教授 (40585767)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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キーワード | 重層社会 / 単層社会 / 群内・群間インタラクション / 集団行動 / 同調 / 引力・斥力モデル / 野生ウマ / 比較行動学 |
研究実績の概要 |
重層社会における集団行動のメカニズムを、ドローンで収集した野生ウマ集団の位置および動きのデータを基に数理モデルを構築し解明するのが本研究の主目的である。重層社会では、複数の群れが集まって高次の集団が形成され、「群れ外だけど集団内」という他者との協調関係が生まれる。群内と群間の階層的なインタラクションを考慮しないといけない。ドローンを用いたデータ収集方法を独自に開発し、集団全体の個体配置・動きにかんするデータを2016年から継続的に収集しており、これらの分析・数理モデル化をおこなった。 おもに2つの研究に取り組んでいる:①重層社会をもつウマの個体間・群間関係の拡張型引力・斥力モデル構築、②ウマの休息・活動(状態)と移動方向の同期の解析。①では、群れ内の個体間距離関係を説明する引力・斥力モデルを、群れ間個体間に拡張し、現実に最も近いパラメーター設定のモデルを見つけ、ユニット群内とユニット群間での力学的相互作用の違いや、ウマが認識している個体の範囲について明らかにする。②では、活動状態および移動方向が、群内・群間で同期・伝播する様相を定量的に調べている。その際重要となる自動個体識別および自動トラッキングについて、領域内の他研究者とも協力し、機械学習を用いた映像解析技術の確立にも取り組んでいる。 ウマだけでなく、種間比較研究にも取り組んでいる。すでに構築しているチンパンジー・ボノボ研究だけでなく、アジアゾウ・ニホンザルでの比較研究にも着手した。アジアゾウも、ウマ同様重層社会を築くと言われているが、社会ダイナミクスの定量的な分析はほとんどない。野生ウマ研究で確立したドローン研究を応用するための予備調査をおこなった。ニホンザルでは、300頭以上からなる集団のネットワーク分析とフィールド認知実験を組み合わせ、他者認識・社会的相互作用について調べる研究基盤を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに取得済のデータの解析については、おおむね順調に進展しているが、予想以上に自動個体識別・自動トラッキングの技術開発に時間がとられている。この点については、領域内の他班の協力も仰ぎながら、問題解決に向けて少しずつ前進している。国内外の研究者共同ネットワークが築けたため、今後の飛躍的な発展が期待できる。また、既存のデータ分析にとどまらず、継続データの収集にも取り組んでいる。2022年度もコロナ禍の影響を大きく受けたが、ようやく海外調査も再開の兆しが見えてきた。データの量が増えれば、それだけ解析・モデルの精度も上がると考えられる。コロナ禍の最中は、国内調査に重点をシフトし、野生ウマだけでなく飼育ウマも対象とした研究にも取り組むことで研究の補填・新たな発展に結びつけることができた。フィールドでみられる集団内・集団間の行動様態を説明する認知基盤について、飼育ウマを対象とした認知実験・ホルモン投与実験を通して、かれらの他者理解能力およびそれらを生理神経メカニズムの解明に取り組めている。さらには、アジアゾウやニホンザルでの種間比較といった、当初計画にはない新たな研究の展開もみられた。重層社会を築く動物は少ないが、このテーマにおいて種間比較するのに最適なアジアゾウでの研究環境の構築に明るい見通しが開けた。今後の飛躍的な研究の発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、野生ウマを中心に、他種(類人猿2種・ニホンザル・ゾウなど)との比較研究も念頭に、自然環境下での観察研究と飼育下での実験研究を組み合わせた研究を展開する。まずは、これまでのデータ解析・モデル構築を高い精度でおこなえるよう、懸案の自動個体識別・自動トラッキング技術の開発に取り組む。領域内外の研究者との連携を強めて、この問題を解決した。同時に、調査も再開しはじめており、継続的なデータ収集に取り組む。飼育下の研究では、私たちがこれまでに確立したオキシトシン経鼻投与の手法を用い、5種で比較研究ができる環境を整えた。集団全個体にオキシトシンを投与して社会ネットワークの変化を調べるなど、世界でも例がない最先端の研究を推進したい。ウマは、野生下では重層社会を築くほど高い社会的認知能力を持っていると考えられる。このような複雑な社会でみられる彼らの個体間相互作用・集団意識というものを、観察・実験を通して明らかにする。 また、新たな展開としてのニホンザル・ゾウ研究についても、研究を軌道にのせ、比較行動分析をおこないたい。ニホンザルについては、個体情報や社会関係に関するデータの蓄積がある・餌付け群のためエサを用いた実験ができるといったメリットを活かし、集団のネットワーク分析とフィールド認知実験を組み合わせるという新しい研究手法の展開を試みている。ゾウに関しては、野生下での観察と飼育下での実験を組み合わせ、新しいゾウ認知科学を立ち上げる。野生ゾウは重層社会を築くとも言われており、私たちが野生ウマを対象に開発したドローンでの研究手法を適用することで、重層社会の定量的な種間比較というこれまでにない研究の展開が見込まれる。
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