野生ウマの重層社会における群内・群間インタラクションの階層性を調べるため、ポルトガル・アルガ山で収集したデータの分析を進めた。本年度は、ドローンで収集した個体の配置データに、糞から抽出した遺伝子のデータを含めて分析し、野生ウマの重層社会の群間近接関係に血縁度の影響がみられないことを明らかにした。重層社会を築く多くの動物種では、血縁度の高い群れ同士が集まる傾向が知られている。ウマの重層社会は、別の要因で成立している可能性が示唆された。行動データの分析も進めており、そのための姿勢推定および自動トラッキングについては高い精度で成功している。機械学習による個体識別にはまだ解決すべき課題がいくつか残っているが、これについても領域内の他班(川嶋班)と連携しつつ問題解決に取り組んでいる。 今年度は、都井岬の野生ウマも対象にデータ収集をおこない、同種内地域間比較にも着手した。ガソリンドローンの導入により、より長時間の連続記録が可能になった。これまで明らかにしてきた個体の空間配置の地域間比較をおこなうとともに、より質・量ともに向上したデータを用いた行動分析をおこなう環境を整えている。さらに、重層社会を築く複数の動物種で比較をおこなうべく、インドの野生ゾウのフィールド調査もおこなった。ドローンを用いた上空からのデータ収集に適した調査地を見つけることができ、今後の研究の進展が期待できる。 ドローンを用いた大型哺乳類の重層社会の研究をこれまで推進してきたが、この成果をレビュー論文としてまとめて国際学術誌に発表した。動物の社会の進化について考察をおこなうとともに、ドローンや機械学習といった最近技術を導入した行動生態学の展望を示した。
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