本研究は生物の集団移動(ナビゲーション)の背後にある複雑な階層的メカニズムの,情報科学的な解明を目的とし,そのために機械学習に基づく新たな教師なし階層表現学習法を開発することで挑戦するものである. 本年度は主に,研究実施計画における「非線形階層性ダイナミクスと,隠れた潜在因子・因果構造の推定法の開発」を目指し,そのための要素技術となる,潜在因果構造の推定法の開発に従事した.提案法は,マルチモーダル計測データのように,観測変数がいくつかのグループに分離でき,それぞれのグループごとに観測が行われているというデータ構造を仮定することを特徴とする.そのようなグループ構造を陽に考えることにより,従来では困難だった潜在空間における因果探索が可能となることを示したものとなる.また,新たな推定法として自己教師学習に基づくものを提案しており,連続最適化に基づき深層モデルの学習が可能であるなど,従来法よりも効率的な学習が可能である.提案法の有効性を示すため,人工的に生成した遺伝子制御ネットワークデータや高次元画像データに適用した結果,従来法よりも高い精度で背後にある因果構造が推定できることが示された.このことから,提案法を生物群から計測された多次元計測データに適用することにより,個体間の依存関係などを推定可能になると期待される.ここで得られた成果は査読付き国際会議に採択された.以上を総合して,生物の集団移動の背後にある複雑な階層的メカニズムの情報科学的な解明に向けた研究を順調に進められたと考える.
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