微細藻類の多くは他の宿主生物と光合成産物のやりとりを介した細胞内共生関係を営むことで知られこの現象は光共生とも呼ばれる。本研究では、単細胞の海洋性渦鞭毛藻である褐虫藻と、サンゴなど刺胞動物との細胞内共生など、生態系を支える一次生産者としても重要な生態学的役割を果たしている光共生系に着目した。特に、どのような共生微細藻類の行動原理が共生の開始や成立に寄与しているのかという視点から研究を進めた。微細藻類の環境応答における動的な行動パターンの変化だけでなく、静的な性状変化についても詳細な解析を行ったところ、褐虫藻が宿主体内と類似した環境に置かれた際に、細胞表面構造や性状の変化が見られ、こうした変化を定量的に解析する系を構築することで、共生成立の初期過程における分子細胞レベルの相互作用を明らかにすることができた。こうした相互作用の変化は、短期的な環境適応が、長期的には共生体および宿主の両者に影響を与える生理生態学的因子となりうることを示唆することから、進化学的にも重要な、これまでに知られていなかった相互作用因子であると考えられる。また、他の共生藻類種においても共生の初期段階に相当する過程の詳細な観察を行う系の構築を行うことができた。これらの結果は、共生関係をアルゴリズム的に理解するためのモデル化に貢献する重要な知見であると考えられる。
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