研究領域 | ジオラマ環境で覚醒する原生知能を定式化する細胞行動力学 |
研究課題/領域番号 |
22H05678
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
市川 正敏 京都大学, 理学研究科, 講師 (40403919)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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キーワード | 遊泳微生物 / マイクロスイマー / 生物対流 / 走流性 / 繊毛 / アクティブマター |
研究実績の概要 |
本研究はモデル遊泳微生物として単細胞微生物の繊毛虫テトラヒメナを用い、自然環境を模したジオラマ環境中での個体分布や運動の特徴的な変化を計測する。計測結果の解析から繊毛虫の環境応答特性を明らかにすることで、遊泳微生物の習性や本能などと解釈される知的な性質のメカニズムを解明することが目標である。これまでの研究によって細胞密度の多寡にかかわらず界面にテトラヒメナが集積することを明らかにしている。集積した個体数比率は条件によってはかなりの割合になるため、センチメートルスケールの生物対流やパターン形成なども含めたマクロな性質や集団運動に与える影響は大きいと予想できる。そこで本年度は、高密度条件において個々の細胞の追跡と集団での運動の両方を同時に測定する実験系や解析手法の開発を行った。解析では機械学習による細胞認識法を複数試すなど、光学系による細胞像の違いと学習モデルとの相性を試し、高効率な個体認識が出来る組み合わせを探索した。その結果、本研究で着目する界面など2次元的な場所では画面内の全細胞を追跡する事も可能になった。一方、溶液中など3次元的な運動を見せる場所では高数密度での追跡は難しいが、運動に関する統計的な物性値を取得し、界面と定量的に比較できる方法論を実験データで確認した。ジオラマ環境の作成については、走流性など流れに対する応答を計測する実験系の開発を行った。界面形状についてのジオラマ環境の作成はいくつか予備実験を行い、その結果を受けて空間形状を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画当初に予定していた界面における全個体のダイナミクスを測定する実験系や解析手法の検討、データ取得は予定通り進捗し、得られたデータの分析や再現性の確認、追加の実験などを行っている。ジオラマ環境への応答の測定という点では、流れに対する遊泳応答を測定する実験系を整え、変動する流れに対する応答測定方法の開発と解析モデルの検討を行った。予想外の成果などは出ていないが、計測手法や解析手法の開発など予定通りに進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの進捗をうけて次年度は、界面における全個体のダイナミクスの測定を行い、個々の細胞の運動と集団的な運動の両方を統計解析する事で、高密度になった遊泳細胞が生物対流などのマクロなパターン形成に至るメカニズムや集団運動を生み出す仕組みを明らかにする。細胞個体スケールからマクロな対流スケールという空間スケールの異なる二つの領域の同時測定と解析を組み合わせることで、個々の細胞の動きから集団運動やマクロな対流パターンに至るダイナミクスを実験的に明らかにする。また、ジオラマ環境での実験も引き続きすすめる事で、上記の集団ダイナミクスや個々の細胞の応答が環境条件にどの様に応答するかの計測を行い、遊泳微生物集団が見せる新奇な応答の発見やメカニズムの解明を目指す。顕微鏡を用いた計測では、溶液中にビーズを分散させて粒子流体解析法(PIV)を用いる事で流速の計測も試みる。細胞の動きと同時に計測された流体の運動を基に流体相互作用を組み入れたモデルや理論との比較を行う事で非平衡統計理論の検証も目指す。この研究を通じて、テトラヒメナや類似の繊毛虫の「行動」や「本能」と見られる知的な性質を外部環境への応答をもとに構成論的に理解することを目指す。
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