研究実績の概要 |
令和4年度は、1) 高圧力顕微鏡装置の開発, 2) 深海微生物の運動測定などを実施した。1)については、顕微観察用の高圧力チャンバーの光学窓をO-ringで固定できる仕様に改造した。これにより窓材に金属薄膜を蒸着した光学窓を自由に着脱できるようにした。循環型恒温槽で調整した冷水を導入し, チャンバー内部の温度を5 ℃前後に調整できた。このチャンバーの金属薄膜にレーザー光を照射することで, チャンバー内部の温度を局所的に100 ℃以上に加熱できた。この熱水噴出抗を模倣した温度差がある実験系を利用して, 大腸菌を観察すると, 低温領域から熱源に向かって泳いでいた菌体が一旦停止し, 熱源から遠ざかる様子を観察できた。今後, 20 MPa程度の加圧を行いながら局所加熱を行い熱水噴出抗を模したジオラマ環境を構築していく。2) 深海に見られる様な低温かつ高圧力の環境を研究室内でジオラマ再現し, 細菌の運動能を検証した。メキシコ湾の海洋鉱床付近から単離された海洋性細菌(Halomonas, Alcanivorax, Shewanella)を培養し,菌体の遊泳運動を顕微鏡下で観察した。水深1500mから採取されたHalomonasとAlcanivoraxについては, 静水圧をかけると生育環境に近づくことから遊泳運動の活性化を期待していたのだが, 圧力増加と共に運動能はむしろ低下した(2023年2月米国生物物理学会発表, 論文投稿中)。ただ, 常圧力下での培養が可能なことや水の臨界圧(22 MPa)では遊泳運動能に大きな変化はないことから, 今後の研究対象として利用しやすいと考えられる。また, 臨界圧程度の静水圧が細菌や心筋細胞に与える影響の予備調査を行った。
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