公募研究
ゾウリムシは100年以上も動物行動のモデル生物として利用されている。特に1970年代以降は「泳ぐ神経細胞」「泳ぐ受容体」として知られていてる。それは、その行動が膜電位応答、カルシウムを代表とする細胞内信号伝達系の挙動でほぼ解析できるからである。このことによりゾウリムシは重要な一種の生物機械モデルとなった。これらの知見は、ゾウリムシの大きさを利用した2本刺しの膜電位固定を含む高精度の電気生理学に裏打ちされたものである。ところが近年、さらに詳細な行動解析から、この知見を超える知能ともいえる行動制御の仕組みを持っていることが明らかになりつつある。一方、げっ歯類を中心にした脳研究の中から、ヒトを含む高等動物と異なる知能をもった生物モデルの研究が重視されつつある。私は膜電位イメージングという手法を用いて海馬を中心とした脳の高次機能を研究している。この手法をゾウリムシに適用し、自由行動下の、複数のゾウリムシの膜電位の同時読み出しを行うことを企画した。この手法を用いることで、ゾウリムシが従来の生物機械的な理解を超える知能(原生知能)を持つこと、またその仕組を明らかにする。本年度は、膜電位感受性色素によってゾウリムシを染色して、蛍光画像を膜電位計測用の光学系、撮像システムで撮像できることを確認した。また、カルシウム測光についても光計測できることを確認した。これまでに、領域会議で2回の発表を行うほか、動物学会でも発表をおこなった。領域の代表にゾウリムシでの電位固定下での詳細な膜電流解析について、データを提供して共同研究を進めている。
2: おおむね順調に進展している
当初、懸念してた膜電位感受性色素での染色と撮像については、計測用のチャンバーの工夫などによって撮像を行うことが可能であることを確認した。蛍光強度は、1KHz程度の撮像速度でも十分な蛍光強度が得られることを確認できた。一方、カルシウム濃度の光学計測に関しても、重要な進展があった。ゾウリムシはコドンの意味が他の哺乳類等のよく知られた生物と異なり大きな障害になっている。この点を共同研究者に相談し、適切なDNA設計を行うことで回避し、最近哺乳動物等の多くの生物で使用される様になってきたGCaMPを組み込むことに成功した。さらに、その撮像に成功した。
撮像に関しては、現時点での手法でほぼ良いと思われるので、当初の計画にあったゾウリムシを固定した状態での電気生理学を用いた校正をする。また、自由遊泳下での原生知能を探るための、ごく限られた走性応答での応答を計測して、ジオラマ環境下での新規の原生知能の仕組みの解明に繋げる。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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