研究領域 | デジタルバイオスフェア:地球環境を守るための統合生物圏科学 |
研究課題/領域番号 |
22H05716
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
比嘉 紘士 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 准教授 (60770708)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
|
キーワード | 固有光学特性 / 海色リモートセンシング / 浮遊懸濁物質 / 植物プランクトン / 衛星データ / ハイパースペクトル |
研究実績の概要 |
本研究では,光環境が複雑な沿岸域を対象に,各種IOPs(植物プランクトン(aph),有色溶存有機物 + デトリタス(adg)の光吸収係数,粒子の後方散乱係数(bbp)) を,汎用的に高精度に推定する新しいIOPs推定アルゴリズムを開発することを目的としている.さらに,最新のハイパースペクトルセンサーや従来の海色センサーによる人工衛星データを用いて,開発したIOPs推定アルゴリズムを適用し精度検証を行い,各種IOPsの時空間分布を明らかにする. これらの目的を達成するため,複数の沿岸域を対象とした船舶による光学観測を実施し,IOPs推定アルゴリズム開発のベースとなるIOPsの収集と,アルゴリズム検証に必要となる実測値の収集を行った.これらの実測値及び公開されている光学データを利用し,水塊ごとに適したIOPsアルゴリズムの推定手法を把握することを目的として,階層クラスタリングによってIOPsベースの水塊分類を行った.その結果,水中の浮遊物質が低濃度の外洋域から高濃度の沿岸域の特徴を網羅するように,IOPsの物質ごとに明確に光学特性の違いを分類することができた.さらに,分類した水塊に対し,5種の異なる推定手法のIOPsアルゴリズムを適用し,水塊の特徴ごとに適した推定手法を把握することができた. また,水塊分類とそれに適したアルゴリズムの性能の特徴に基づき,沿岸域のIOPs推定アルゴリズムの開発を進めた.また,スペクトル最適化手法に基づきIOPsアルゴリズムをコーディングし,ハイパースペクトルの波長を想定した解析を実施したところ,全光吸収係数と後方散乱係数の推定精度が飛躍的に向上し,その有効性が示された.その一方で植物プランクトンの光吸収係数の精度は低下し,課題が残った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東京湾や有明海といった高濃度沿岸域での光学・水質観測を実施することによって,衛星データと船舶観測との同期データの取得に成功した.これらの現地観測結果及び過去に取得されたデータセットを利用し,高濁度な沿岸域を含む全球で取得された光学実測値を使用して5つの半解析的な固有光学特性(IOPs)推定アルゴリズムの適用性を検証した.その結果,アルゴリズムの適用性は対象の水域の特性に応じて変化すること,IOPsのスペクトル形状を段階的に推定するQAAは水域のダイナミックレンジを捉えることができることが分かった.また, IOPsに基づいて水塊を分類し,それぞれの光学特性に対するIOPs推定アルゴリズムの適用性を検証した.その結果,様々な光学特性を有する水塊に対するアルゴリズムの適用性を把握し,各光学特性に対するアルゴリズムの性能を考慮したIOPs推定手法を確認した.また,それぞれの水塊に対してアルゴリズムを組み合わせることで高精度にIOPsを推定できる可能性が示唆された.加えて,IOPsアルゴリズムの検証結果に基づき,汎用性の高い新たなアルゴリズム開発を行った.その結果,日本沿岸域では,水域ごとにSIOPsの設定を調節してもIOPs推定の精度が改善せず,水域ごとに一定のSIOPsを用いる方法には限界があることが分かった.さらに,bbpスペクトル形状の冪乗関数の妥当性に関しては,沿岸域においてはある程度議論の余地は残されているものの,その影響は局所的であることが分かった.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では,高濁度な沿岸域を含む全球で取得された光学実測値を使用して,IOPsに基づいた水塊分類を行い,その分類された水塊ごとに5つの半解析的なIOPs推定アルゴリズムの適用性を検証した.これらの結果から,高濁度水域に有効なアルゴリズムの特徴を把握することができたが,今後の課題として,分類された水塊ごとにどのようにIOPsアルゴリズムにおけるSIOPのパラメーターを可変として適応性を向上させるかが課題として挙げられた.さらに,SIOPs設定の変更がスペクトル最適化アルゴリズムの推定結果に与える影響については,いまだに不明な点が多く,今後も追加の検証をおこない,効果的なSIOPsの条件について整理するとともに,高精度で汎用的なIOPs推定に繋げる予定である.また,本研究で開発したIOPs推定アルゴリズムの最新の衛星データへの適用と検証のために,現状,沿岸域に適したGCOM-C衛星の使用を開始しているが,ハイパースペクトルセンサー搭載のPACE衛星の打ち上げの遅れに伴い,代わりとしてISS搭載型ハイパースペクトルセンサーHISUIの利用も検討する予定である.
|