公募研究
本研究では、シロイヌナズナの花茎を用い、部分的に切断された茎の組織がメリステマティックな性質を獲得し、細胞分裂および細胞分化の過程を通して組織癒合に至る約7日間のプロセスを解析した。傷の上側・下側で起こる過程に注目し、1~3日目に発現がピークを迎える制御系遺伝子や細胞壁関連遺伝子等の下流遺伝子の機能解明を行い、以下の結果を得た。(1)オーキシンシグナルに関わるIAA5やエチレン合成に関わるACS、ジャスモン酸合成に関わるLOXは、癒合部において切断1日後に最も強く発現していた。(2)NAC型転写因子(ANAC071)およびAP2型転写因子(RAP2.6L)が、切断1日から3日後にわたって傷の上部および下部で特異的な発現を示し、ANAC071の発現はオーキシンの蓄積およびエチレンによって、RAP2.6Lの発現はオーキシンの枯渇およびジャスモン酸によって誘導された。(3)ジャスモン酸情報伝達の欠損変異体jar1では癒合の強い阻害がみられたが、合成酵素の欠損変異体aosではむしろ細胞分裂の促進が見られた。(4)RAP2.6LまたはANAC071の機能を抑制した形質転換体(CRES-T法)や変異体では、癒合部における細胞分裂の阻害が見られた。(5)ANAC071を過剰発現するとCYCB1:1やXTH20の発現とともに細胞分裂の亢進が見られ、ANAC071とRAP2.6Lの欠損体では接ぎ木に異常がみられた。(6)3日目に発現の上昇する細胞壁関連遺伝子では、Xyloglucan endotransglucosylase/hydrolase(XTH20)やFucosyltransferase(FUT3)がオーキシンおよびANAC071によって発現が制御され、Matrix metalloproteinase(MMP)の欠損変異体では組織癒合の異常が見られた。
2: おおむね順調に進展している
癒合に関わるホルモンおよび転写制御因子を解明して論文として発表できたので。
今後は、部位や時間に応じてジャスモン酸の定量を進めるとともに、coi1やopr3など他のジャスモン酸のシグナリングや合成に関わる遺伝子の変異体を解析し、ジャスモン酸の癒合への関わりを解明する。また、オーキシン情報伝達系に関わる遺伝子(IAA5、ARF6/8)の変異体等の解析を進め、オーキシンシグナリングの役割を解明する。一方、XTH20/XTH19の2重変異体やFUT、MMP、polygalacturonase等の細胞壁関連遺伝子やLRR-RLKなどの情報伝達因子等の変異体の解析を進め、細胞壁関連遺伝子等が癒合に果たす役割を解明する。
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Proc.Natl.Acad.Sci.USA
巻: 108 ページ: 16128-16132
10.1073/pnas.1110443108
http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~plphys/shinobuhomepage/SSindex.html