研究概要 |
イネの花や花序の発生・形態形成の機構を,メリステムの機能と関連しつつ研究を行った. 1.tongari-boushi1(tob1)変異体では,小穂器官の形態異常や発育不全,シームレス穎の形成など,花や花序に多面的な異常を示す表現型が見られる.詳細な解析の結果,多面的な小穂器官の異常は小穂メリステムの機能不全と密接に関係していることが明らかとなった.遺伝子を単離した結果,TOB1は,YABBY転写因子をコードし,外穎・内頴など小穂の側生器官で発現していた.一方,メリステムでの発現は全く検出されなかった.したがって,tob1変異体のメリステムにおける異常は,TOB1が細胞非自律的に作用していることと考えられる.また,TOB1は転写の促進因子としてではなく,抑制因子として働くことが示唆された.TOB1を過剰発現させると小穂の器官数が増加し,メリステムの活性が増大することが示された.一方,TOB1に転写抑制ドメインを結合させて過剰発現させたところ,tob1変異体の表現型は示さず,単なるTOB1の過剰発現と同様の表現型を示した.したがって,TOB1は転写の促進因子としてではなく,抑制因子として働くことが示唆された.以上の結果から,TOB1遺伝子は,転写抑制に関わり,側生器官からメリステムへのシグナル伝達を通して,細胞非自律的にメリステムの制御に関わっていることが明らかとなった. 2.aberrant spikelet and panicle1(asp1)変異体は,生殖成長期において花序や小穂に多面的な表現型を示したが,詳細な表現型の解析の結果,これらの異常はメリステムの転換や維持,小穂発生の遺伝的プログラムの部分的遅延あるいは昂進としてとらえることにより,統一的に解釈することが判明した,ポジショナルクローニングにより遺伝子を単離した結果,ASPI遺伝子はシロイヌナズナのTOPLESS様の転写コリプレッサーをコードしていることが示された.さらに,栄養成長期では,腋芽の伸長抑制解除や葉序の乱れなどがみられ,ASPI遺伝子の機能はオーキシン作用と密接に関連していることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
TOB1遺伝子とASP1遺伝子の機能欠損がどのような発生異常を引き起こすのかを明らかにするとともに,両遺伝子を単離した.さらに,分子生物学的な解析を進め,TOB1およびASP1遺伝子の発生上および分子レベルでの機能を解明した.遺伝子単離および,分子レベルでの機能解析という点は,当初の計画以上に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
TOB1遺伝子の機能をさらに解析するため,TOB1と類似した遺伝子(TOB2,TOB3)をも研究対象とし,その発生上における機能の解明を行う.これら遺伝子の多重変異体を作製し,これら遺伝子の機能を深く追究するとともに,機能の冗長性も調べる.さらに,TOB1が転写抑制に関わる点に着目し,TOB1と相互作用する因子を見いだし,転写抑制に関わる分子機能を明らかにする.ETTIN遺伝子に関しては,雄蕊の発生における役割をさらに明らかにするとともに,芒形成との関連も含めて解析を進める.
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