現在、植物の主要な光受容体であるフィトクロムは、光依存的にPIFと呼ばれる転写囲子群の分解を誘導し、その標的遺伝子の転写量を変化させることで、様々な光応答を引き起こすと考えられている。しかし我々は、これまでの研究により、スプライシング制御に関わる新奇SR蛋白質、RRC1が、フィトクロムの光シグナル伝達に必要であること、また、フィトクロムがRRC1を介して、いくつかの遺伝子に対して、転写量を変化させることなく、その選択的スプライシングを赤色光依存的に制御することを明らかにした。 今年度我々は、まず、フィトクロムによる選択的スプライシング制御が、たった2分間の弱い赤色光パルス照射によっても引き起こされること、そしてこの光応答が、赤色光パルスの直後に照射する遠赤色光パルスによって打ち消されることを明らかにした。また、これらの反応は、ノルフルラゾンやDC閥存在下でも全く影響を受けなかった。以上の結果から、赤色光・遠赤色光可逆性を有するII型フィトクロムが、光合成とは独立に、選択的スプライシングを制御することが確かめられた。 我々はまた、次世代シーケンサーを用いたmRNA-seq解析により、フィトクロムによる選択的スプライシング制御の標的遺伝子を、シロイヌナズナにおいて網羅的に解析した。その結果、フィトクロムはそのN末端領域からのシグナル伝達により、PIFを介した転写制御の時とは異なる標的遺伝子に対して、赤色光照射量依存的に選択的スプライシング制御を行うことが明らかになった。 さらに、光呼吸に必須の役割を担うグリセリン酸キナーゼが、フィトクロムによる選択的スプライシング制御を受けることにより、その細胞内局在が光依存的に変化することが示され、このフィトクロムによる新奇制御機構が、光環境変化に応じた光呼吸活性の制御に関わることが示唆された。
|