ピストンとDNAの複合体であるクロマチン構造は、ゲノムDNAをコンパクトに収納しつつ遺伝子の発現制御に関わっている。ヒストンシイペロンはクロマチン構造の動的変動に関わる因子の一つである。多数のコアヒストンバリアント特異的なヒストンシャペロンが同定され機能解析が進んでいる。ところが、哺乳類細胞におけるリンカーヒストンH1シャペロンの実体はほとんど明らかでなかった。そこで我々はリンカーヒストンシャペロンの同定とマウス発生過程における機能解析を進めてきた。Flagタグを付加したピストンH1を恒常的に発現するHeLa細胞を樹立し、細胞核抽出液画分より精製したH1相互作用タンパク質について、質量分析による網羅的な同定を試みた。これにより、Template Activating Factor(TAF-I)が新規のヒストンH1結合タンパク質として同定された。TAF-1は試験管内でヒストンシャペロン活性を持ち、細胞内でヒストンH1の核内動態に関与することを見出した。次に生体内におけるTAF-1の機能を解析するため、TAF-1ノックアウト(KO)マウスを作製した。TAF-I KOマウスは、野生型に比べ胎生8.25日目から徐々に成長が遅れ、未熟な血管形成と重度な貧血を示し、胎生12.5日目までに致死であった。TAF-I KOマウスで観察された成長の遅延を詳細に解析するため、TAF-I KO ES細胞を構築した。TAF-I KO ES細胞は細胞分化を誘導すると、野生型に比べ顕著に細胞増殖速度が低下した。またヒストンシャペロン活性を欠失したTAF-1変異体の発現では、その細胞増殖速度の低下を回復することができなかった。以上の結果から、TAF-1はヒストンシャペロンとして発生分化過程の細胞増殖速度を維持し、正常な組織の形態および機能の形成に関与すると考えられる。
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