研究概要 |
ゲノム刷り込み現象は,哺乳類特有の親由来特異的遺伝子発現を引き起こすエピジェネティックな現象あり,生殖細胞系列でメチル化インプリントの確立と消去を世代ごとに繰り返す。しかし,メチル化酵素Dnmt3a,Dnmt3Lによってどのようにメチル化すべきdifferentially methylated region (DMR)が認識されるのかなど,そのメチル化インプリントの確立機構には不明な点が残されている。興味深いことに,ヒト15番染色体断片を保持したトランスクロモソミックマウスにおいて,母方由来のヒト15番染色体上のSNRPN DMRはメチル化されていなかった。そこで本研究では,「何故,ヒト15番染色体のメチル化インプリントはマウスの卵子内で付加されなかったのか」を明らかにすることで,生殖細胞におけるゲノムインプリントの確立に必要なエピジェネティックな分子機構の解明を目指した。平成23年度は,DMR近傍のクロマチン構造の違いがないか検討するためDNA-FISH法を用いたSNRPN/Snrpn領域特異的なクロマチン脱凝集の解析を行った。その結果,卵巣の組織切片においてSNRPN/Snrpn領域特異的なクロマチン脱凝集をマウス染色体,およびヒト染色体両方で確認できた。一方,卵を取り巻く上皮系の細胞では,両染色体共にクロマチン脱凝集は観察されなかった。つまり,移入ヒト染色体上のクロマチン状態は少なくともその組織特異性を維持しており,メチル化インプリントの確立の違いに寄与しているとは考えにくい。そこで,DMRの核内配置がメチル化インプリントの確立に寄与している可能性がないか検討を行った。本年度は,マウスKcnq1,Peg1/Mest,Igf2r,D1k1領域のDMRの核内配置を解析し,その核内配置に一般則があるか検討したが,それらの核内配置に特異性を見出すことは出来なかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で予定していた卵におけるヒストン修飾の解析には着手できていないが,DNA-FISH法を用いたクロマチン脱凝集の解析や多様なインプリンティングセンター(IC)の核内配置などの解析で一定の成果が上げられた。また,ヒトPWS-IC置換マウスの入舎および交配も順調であり,24年度の解析に用いる個体数の増加に努めている。
|
今後の研究の推進方策 |
ヒト15番染色体を保持したTCマウスとヒトPWS-IC置換マウスの卵でクロマチン脱凝集の状態も含め,IC領域の核内配置に差が見出せないか詳細に検討する。また,当初の研究計画の通り少量の卵からクロマチンを回収できれば,卵におけるピストン修飾を解析する。しかしながら,現在のところ少量の細胞からのクロマチンの回収には成功しておらず,細胞数の増加などの対応が必要であると思われる。今後,少量の卵からクロマチンの回収が成功すれば,3Cアッセイを用いたSNRPNDMR領域と相互作用するゲノム領域の同定を試みる。
|