DNAメチル化などの後成的化学修飾が細胞の遺伝子発現パターンを確立・維持し、細胞運命は決定・維持される。胚発生過程においてDNAメチル化酵素であるDNMT3A/3Bの働きにより、ゲノム全体のメチル化レベルが上昇するが、卵・精子の元になる始原生殖細胞では、DNMT3A/3Bの発現が特異的に抑制される。本研究では、始原生殖細胞特異的なDnmt3bの発現抑制の生理機能を解明するために、始原生殖細胞でDnmt3bを人為的に発現させるマウスの作製および解析を行った。 恒常的に発現するCAGGSプロモーターでloxp-DsRed-終止コドン-loxp-Dnmt3b1を発現させるトランスジェニックマウスと、形成期の始原生殖細胞で発現するBlimp1の発現制御下の下流にCreリコンビナーゼを挿入したトランスジェニックマウスを交配し、Dnmt3b高発現始原生殖細胞の挙動を追跡した。その結果、野生型始原生殖細胞は胎生8.5に胚において120個程度存在していたのに対して、二重トランスジェニック胚では始原生殖細胞が30個程度しか観察されなかった。この結果は、始原生殖細胞特異的なDnmt3bの発現抑制が、始原生殖細胞の初期分化に必須であることを示している。現在、ES細胞から始原生殖細胞へのin vitro分化誘導系を用いて、始原生殖細胞の形成・初期分化を制御する遺伝子カスケードとDnmt3bの発現抑制の階層性の理解を試みている。
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