研究領域 | ネアンデルタールとサピエンス交替劇の真相:学習能力の進化に基づく実証的研究 |
研究課題/領域番号 |
23101502
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山内 太郎 北海道大学, 大学院・保健科学研究院, 准教授 (70345049)
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キーワード | 狩猟採集民 / 子ども / 成長 / 食 / 栄養 / 遊び / 身体計測 / 行動パターン |
研究概要 |
初年度はカメルーン東部州ロミエ市周辺に居住するピグミー系狩猟採集民の子どもを対象として集約的調査を行った。 1.子どもの成長と栄養 626名(男子349名、女子277名)の子ども(1歳~20歳)について身体計測を行った。米国およびWHOのレファレンスデータを用いて、対象者の栄養状態を評価した。身長および体重の成長曲線はレファレンスの5パーセンタイルを下回った。ところが体重を身長で標準化したBMIにおいてZスコアは中程度となった。さらに、IOTFによる体格判定でも8割以上の子どものが「標準」に分類された。以上より、米国・WHOのレファレンスに比べると低身長、低体重であったが、対象とした子どもの栄養状態は全般的に良好であることが示唆された。LMS法により平滑化成長曲線を作成したところ、成長速度曲線ならびに成長加速度曲線から思春期スパートの存在が示唆された。さらに数学的モデル(Preece-Banesモデル1)の当てはめを行い、生物学的パラメータを推定した。 2.子どもの行動パターン 2~16歳の子ども44名(年少群:男子19名、女子8名、年長群:男子9名、女子8名)を対象として、身体活動量測定および行動観察を行った。連続3日間の加速度モニタリングとGPSによる行動軌跡データを解析した。男女とも年齢が上昇するにともなって1日総移動距離は増加し、行動半径は拡大していた。男子の年長群において個人差(ばらつき)が観察された。1日総歩数は男女とも2万歩を超えており、狩猟採集民の子どもは日常生活において高い身体活動量を有していることが示唆された。活動場所別の活動時間の分析から、男子は年長群になると、居住集落で過ごす時間が減り、その一方で森や他集落で費やす時間が増加していた。女子では年少群・年長群の差は小さかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大規模サンプルを対象とした身体計測と小サンプルにおける集約的な活動調査を実施した。 成長分析から思春期スパートの存在を確認し、子ども期の期間を推定できた。 一方、活動調査からは年齢にともなって子どもの移動距離・行動半径が拡大し、とくに思春期の前後で子どもの活動が大きく変容することを見出した。 食事調査はできなかったが、来年度に実施可能である。
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今後の研究の推進方策 |
来年度(最終年度)は、子どもの行動のデータを量・質ともに充実させること、食事調査を行うことを予定している。加えて、近隣集落をまとめて人口学的データを収集し、ピグミー系狩猟採集民Bakaの出生と移動に関する知見を得ることを目指す。 さらに、AO2以外の計画研究と連携することで、狩猟採集民(ホモサピエンス)の学習能力の発達に関する定量的エビデンスを提供する。 具体例として、 1)ネアンデルタールの化石資料から成長パターンを推定する(AO1、CO1と連携)、 2)人口学データをモデルに援用してシミュレーションを行う(AO1、BO1と連携)を計画している。
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