研究実績の概要 |
ホモ・サピエンスがネアンデルタールと交替した原因として、サピエンスに特異的に備わった学習能力がモデル研究により想定されている。サピエンスは模倣による社会学習能力と試行錯誤による個体学習能力を兼ね備えていたため、社会学習能力のみで個体学習能力の低かったネアンデルタールより優位に立ったのだ、というわけである。これまで、社会学習能力としては主に模倣が想定されてきたが、個体学習能力としては質的に異なる2つの能力が代表例として想定されてきた。それが試行錯誤と創造性である。モデル研究においては両者とも自分自身の行動から学ぶことであるため区別されないが、様々な学問領域及び日常生活における直感においてもこの2つは異なる能力であると考えられる。なぜなら、創造性には試行錯誤には必要のない高度な認知能力が必要とされるからである。そこで本研究では、模倣、試行錯誤、創造性の間の関係をはじめてホモ・サピエンスにおいて探る試みを行った。23年度のプロトタイプの実験には様々な問題が含まれていたため、24年度はそれらを最大限解消する目的で本格的な実験を行った。その結果、創造性と模倣の間には正の関係があり、試行錯誤と模倣の間には関係がないことが示された。しかし、創造性と試行錯誤の間の関係については明確な結論を下すことはできなかった。これらの結果は、個人学習と社会学習がトレードオフ関係にあるわけではないことを示唆している。創造的な人は模倣も上手いのである。このことは、正確な社会学習と探索的な個人学習を組み合わせる社会学習-探求者が、地理的な変動があり移住率が比較的高い状況においては適応的になるという新しい理論的主張(e.g., Aoki, 2010)を部分的に支持するものである。サピエンスは高い模倣能力に加えて高いレベルの創造性を獲得したためネアンデルタールより適応的だったのかもしれない。
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