【研究の目的】地域間交流があることで各地域の文化革新速度が速まるという仮説を検証するため、九州地方で伝統的におこなわれている神楽を舞台とした、地元住民と観光客が交流する実態調査をおこなった。調査と並行して、地域間交流が文化革新を引き起こすのに必要なメカニズムを数理モデルを構築することで分析した。 【研究実施状況】昨年度は宮崎県の伝統的な神楽に関する実態調査をおこなったのに対し、今年度は調査範囲を大分県・熊本県まで広げ、また神楽を利用した様々な芸術祭イベントを対象とした調査をおこなった。調査を通じて、芸能・芸術を介した人々の繋がりで文化革新が引き起こされる様子について明らかにした。ただし、地元文化の真正性が保たれるためには、都心部からの距離が、ある程度は離れていることが必要なことも明らかになった。その調査結果をふまえ、文化革新をひきおこすメカニズムを描いた数理モデルの構築をおこなった。地域間交流が文化エリートによって主導され、かつ地域間で人々の移住が一定の頻度であると、全体としての文化蓄積速度が速くなることを明らかにした。それとは別に、異なる文化を持つ人々が互いに協力するために必要な条件を明らかにするため、旧石器時代の環境を踏まえた数理モデルの分析をおこなった。人々が、局所的に分布する財を求めて遠距離探索をする場合に、資源を分割する戦略が有利になることが明らかになった。また、一定の外部者が地域に入り込むことで、文化革新が進むだけでなく、適度な利用圧を通じて環境の豊かさが増すために必要な条件を、数理モデル分析で明らかにした。
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