ネアンデルタールなど古代人の遺伝子配列はまだ限られており、現代人との交替劇で、両者の生得的な違いが果たした役割を把握するのは困難である。 そこで筆者は現代人集団のゲノム配列中に存在する、古代人由来ハプロタイプを利用することを考えた。比較的容易に利用可能なのは、既報の研究で、出アフリカ以後ユーラシアでの混血によって現代人に入り込んだ可能性が議論された、ハプロタイプ配列である。現代人14集団由来の1092個体の全ゲノムデータを解読した1000 Genomes Projectのデータに、既報古代人由来ハプロタイプが収録されているか探索することを通じて、全ゲノム領域から古代人由来ハプロタイプを選び出す基準を定めることを本研究の目的とした。 その結果、既報6ハプロタイプのうち5つのハプロタイプにおいて、1000 Genomesデータ中にその存在を特定した。さらに、それら候補ハプロタイプの遺伝子系統樹や標本個体の出身集団の解析、およびネアンデルタールゲノムやデニソバゲノム(古代人ゲノム)との照合を行った。その結果、本研究で現代人より特定されたハプロタイプは、アフリカ系集団での出現頻度が比較的低い点で、ユーラシアでの混血シナリオに合致した。ところが、遺伝子系統樹や古代人ゲノムとの照合の結果、2つのタイプがあることが判明した。一つは遺伝子系統的に古代人ゲノムと近く、しかも現代人ハプロタイプのクラスターの中に含まれているタイプである。もう一つは現代人クラスターから遠く離れ、しかも古代人ゲノムよりさらに古くから分岐した配列を有するタイプである。前者はネアンデルタールおよびその近縁由来と考えられるが、後者はネアンデルタールの時代以前の古代人集団に由来するハプロタイプと考えられる。ここで得られた知見に基づき、現代人ゲノムより一般的に古代人由来ハプロタイプを得るための基準を提唱した。
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