研究概要 |
本研究では,バルクナノメタルの超伝導物性を開拓することを目的とし,金属元素超伝導体について極低温電子輸送測定と磁化測定を行った.また,バルクナノメタルの微細構造と局所的な電子・磁気状態を明らかにするために,走査トンネル顕微分光(STM/STS)などのナノプローブの整備を行った.得られた成果を以下に示す. 1.バルクナノメタル超伝導材料として典型的な金属元素超伝導体であるNbについて,6GPaの圧力で高圧ねじり(HPT)加工を行うことで巨大ひずみを導入した超伝導材料を作製しその超伝導特性を詳細に調べた.(研究計画班との連携) 2.超伝導転移温度T_cをHPTの回転数Nの関数として調べた結果,N=0(加工前)からN=2の間でT_cは9.25Kから9.37Kまで増大することが分かった.また,透過電子顕微鏡による結晶粒径の観測の結果,N=2のHPT加工では結晶粒径が250nm(超伝導コヒーレンス長の6倍程度)まで微細化されていることが分かった.このことから,T_cの増大は結晶粒の微細化による量子サイズ効果と関連があること考えられ,最近理論的に予測されているナノスケールにおける超伝導体の振る舞いと比較を行った. 3.HPT加工を行ったNbについて,T_c以外にも磁場中の超伝導特性(上部臨界磁場H_<c2>や臨界電流密度J_c)も大きく増大することが分かった. 4.4KGM冷凍機システムを導入し,低温電子輸送測定システムを構築した. 以上の結果より,バルクナノメタルでは巨大ひずみの導入による結晶粒界が超伝導の微視的特性や巨視的物性を制御する手段として有効であることを示しており,超伝導材料の機能を開拓する新しい加工法として重要であると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バルクナノメタルの超伝導物性をNbについて詳細に調べた結果,予測を上回る大きな効果が観測され,この項目に関しては「(1)当初の計画以上に進展している」に該当する.しかし,その他の研究内容(STM/STSの整備)については東日本大震災による装置への被害の復旧作業のため「(3)やや遅れている」に該当する.このため,研究全体としては「(2)おおむね順調に進展している」とした.
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