研究概要 |
本研究では粒界制御バルクナノ(以下,BN)-TiNi合金を創製するとともに,種々の対称傾角粒界の構造を最新鋭の収差補正走査透過電子顕微鏡(Cs-Corrected STEM)によって解析し,結晶粒径と粒界性格が本合金の相変態に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし,本年度は1.粒界制御型BN-TiNi合金の創製法の改善と確立,2.粒界制御BN-TiNi合金の粒界構造解析に重点おいて研究を行った.項目1ではこれまでの研究においてマルテンサイト(M)状態にあるTiNi合金に20%程度の引張変形を加え変形双晶を導入した後に適切な熱処理を施すことで,母相組織(B2構造)の平均粒径を約2μmでかつΣ29以下の対応粒界頻度を約90%まで高めることに成功し,その形成機構がM相と母相の格子対応に由来することを明らかにした.そこで結晶粒微細化と粒界制御に及ぼす変形モード,変形量の影響を系統的に調べるために,曲げ試験に着目し各々試料外周・内周から中立線にいたる引張・圧縮ひずみの傾斜変化が再結晶処理後の組織に及ぼす影響をSEM-EBSD,通常透過電顕,HAADF-STEMによって解析した.また,母相初期粒径の影響を平均粒径100,3μmの粗粒材と細粒材によって調査した.以下に得られた結果を要約する. 1.引張変形では圧縮変形に比べて低ひずみで結晶粒の微細化と粒界制御が達成された.具体的には引張変形領域ではひずみ量5.5%以上で平均粒径0.95μm,Σ29以下の対応粒界頻度65%が得られたが,圧縮領域ではひずみ量18%で平均粒径1.2μm,Σ29以下の対応粒界頻度50%であった.これは,引張変形では変形初期から双晶変形が導入されることに対し,圧縮変形では高ひずみ域まで転位運動がそれぞれの塑性変形を担っているためと考えられる. 2.初期粒径が小さいほど,わずかなひずみで結晶粒微細化が達成された.一方で,導入される双晶同士のぶつかり合いによりランダム粒界が形成され,組織中の対応粒界頻度は減少した. 3.平均粒径0.95μmの試料に存在する[110]Σ3,9対称傾粒界の構造は粗大粒材に存在するそれらと同様の構造ユニット(Kite構造)で記述できた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に掲げた,本課題の基礎研究に対応する1.BN-TiNi合金の粒界制御法の改善と確立,2.粒界制御BN-TiNi合金の粒界構造解析については,研究実績の概要に記載したように概ね目的を達成し,またBN-TiNiにおけるM変態の挙動ついては,解析の原点となる粗大粒試料におけるM結晶の自己調整構造の形態と結晶学ついて雑誌論文に受理され印刷中であることから,自己評価区分を(2)とした.
|
今後の研究の推進方策 |
24年度は前年度に引き続き1,2についてさらに精査するとともに,以下の項目について実験的研究を遂行する. 3.粒界制御BN-TiNi合金における熱弾性M変態. M相の内部欠陥と自己調整構造に及ぼす母相粒径と粒界性格の影響,BN-TiNiにおける変態挙動の特異性の有無. 4.粒界制御BN-TiNi合金における析出現象 Ni過剰TiNi合金における逐次析出(Ti_3Ni_4→Ti_2Ni_3→TiNi_3)現象に及ぼす母相粒径と粒界性格の影響. 5.粒界制御法のBN-TiXNi(X=Zr,Hf,Ta)系およびその他合金系への展開. 結晶粒微細化と粒界制御による加工性と形状記憶・超弾性特性の改善.TiNi系以外の形状記憶合金のBN化.現時点で研究を遂行する上での問題点は特に顕在化しておらず,研究計画の変更の予定はない.
|