研究概要 |
(1)HPT加工が施されたAl-1.0mol%Mg固溶体合金に対して,種々の温度で焼鈍を施した.各焼鈍材の結晶粒径を測定すると,373K焼鈍材(d=320nm)まではHPT加工まま材(d=270nm)と比べてほとんど変わらないが,焼鈍温度が高くなると大きくなり,393K焼鈍材ではd=530nm,423K焼鈍材ではd=1020nmとなる.この粒径と硬さの間には,H_v=37.5+30.4d^<-1/2>で表せるホール・ペッチ則が成立することから,硬さの低下は結晶粒の粒成長に対応するといえる.(2)373Kと393Kにおいて12~1000hの焼鈍を施した結果,硬さ値は焼鈍時間が長くなると徐々に低下し,1000h焼鈍材の硬さはHPTまま材の6割程度となる.これは,長時間のクリープ試験において,試験中の粒成長を考慮する必要があることを示唆する.なお,焼鈍時間が24hから36hの硬さの低下は僅かであり,この時間内のクリープ試験では,応力などによる動的な粒成長を除いて,静的な粒成長はないと考えられる.(3)一定荷重押込み試験は,373K,24h焼鈍材(d=320nm),393K,24h焼鈍材(d=530nm)およびHPT加工が施されていない試料(d=800μm)に対して試験温度373K,荷重2.94Nの条件で実施された.d=800μmの場合,負荷直後の瞬間変位が生じた後,押込み変位は時間とともにまったく増加しない.一方,d=320nmとd=530nmのバルクナノメタル材では,押込み変位は時間とともに徐々に増加するため,圧子下でクリープが発現することを示している.(4)393K,24h焼鈍材(d=530nm)に対する一定押込み歪み速度試験から得たクリープの応力指数はη=3.4である.通常結晶粒材の高温におけるクリープに対する解釈を用いると,超微細結晶粒Al-Mg固溶体合金のクリープに関する変形律速機構は,コットレル雰囲気を形成した転位の運動によるすべり律速となる.しかし,クリープにおける転位運動の寄与は十分に考えられるが,試験温度は約0.4T_mと比較的低温であるため転位下における溶質雰囲気の形成やそれを伴いながらの運動が可能かどうかについて検討する必要がある.今後は,得られた応力指数の物理的意味を検討していく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
震災の影響および初年度であることから,試料準備と作製,組織観察などに手間取った.しかし,年度が終了するまでには,交付申請書で予定していたインデンテーションクリープ試験を実施することができた.なお,申請書では,積層欠陥エネルギーに着目して実験を進めることを念頭に置いていたが,微視組織が熱的に安定な温度域が0.4T_m付近であることが明らかとなり,その温度においても溶質原子が固溶する合金系(Al-Mg合金)を実験で使用することとした.積層欠陥エネルギーに関する調査は,本報告に関する実験が終了した後実施する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
一定押込み歪み速度試験を用いて,種々の条件下におけるクリープの応力指数および活性化エネルギーを評価する.また,EBSDおよびTEM観察を実施し,実験から得られたクリープ特性値の物理的意味を検討する,この結果より,バルクナノメタルのクリープ発現のメカニズムとその変形律速機構を明らかにする.また,本研究で得られた結果について,本プロジェクトのメンバーと協議し,本研究課題を遂行していく.
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