研究概要 |
1、磁場に鈍感な重い電子状態を示し,同時に磁場に依存しない局所フォノン自由度を持つ充填スクッテルダイト化合物SmOs4Sb12の強磁場下における超音波測定を行うことで,結晶場基底状態を明らかにすることを目的とし,平成23年11月にドイツ,ドレスデン強磁場研究所で62Tパルス磁場下超音波実験を行った.その結果,4.2Kに於ける弾性定数C11の磁場依存性は10T付近で極小をとり,高磁場領域ではdHvA振動を繰り返しながら励磁と共にゆるやかに上昇する傾向を示した.立方晶系においてC11はΓ1対称性のOBとΓ3対称性の四極子感受率の和として記述されるため,高磁場領域でOBの影響が小さいと仮定した場合,本実験結果はΓ8四重項基底状態を示唆する結果である. 2、ラットリングを示すカゴ状化合物探索の一環として,EuOs4Sb12の単結晶試料育成を試行したものの,超音波実験に使用できる1立方ミリメートル程度の単結晶サイズを得る事ができず,現在も試行を繰り返している.一方,カゴ状結晶構造を持つ重い電子超伝導体として古くから知られるUBe13とその類似物質群RBe13(R=ランタノイド)の単結晶育成に成功し,1立方ミリメートル程度の単結晶を得た.試料評価と研磨を行い,超音波実験の準備をほぼ完了した. 3、キャパシタンス法による熱膨張セルをCADで設計し,民間の金属加工業者(0.1mピッチネジ部品)と北海道大学理学部工作室(他部品)で切削加工された無酸素胴部品をアルゴン雰囲気中でアニール処理した後,キャパシタンス極板部に金蒸着を行い,室温に於ける動作チェックで問題無き事を確認した.対象物質であるU3Pd20Si6の磁場中弾性定数測定を完了し,超音波測定から磁場-温度相図を作成し,今後の熱膨張(磁歪)測定への足掛かりを得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハイブリッドピストンシリンダセルを用いた静水圧下に於ける超音波実験の準備が遅れている。理由は、ピストンシリンダセルに内蔵した温度計の破損である。本年度はセルを作り直し、セルノックス温度計の較正を完了した。また、ドレスデンでのパルス強磁場実験の中途段階で,これまで超音波実験を行なってきたSmOs4Sb12単結晶試料を紛失し,新たな単結晶試料の成形(研磨)および試料評価からやり直したため,遅延が生じた.平成24年度から静水圧下超音波実験を開始できる。
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今後の研究の推進方策 |
計画に若干の遅延があるものの,研究の推進におけるクリティカルな問題はない.一方で,カゴ状化合物の探索の一環としてRBe13(R=希土類)の単結晶試料育成に着手し,超音波実験が可能なサイズの試料を得る事に成功した.本系では特にランタノイドを内包した系について,これまで超音波による弾性研究の報告が無いため,充填スクッテルダイトEuOs4Sb12の単結晶育成が困難である場合,平成24年度はRBe13系に的を絞って研究を進める可能性がある.
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