公募研究
重い電子系uRu2si2はTo=17.5Kで相転移を示す物質であるが、その秩序変数は25年もの間国内外で精力的に研究されているにもかかわらずいまだ明らかになっていないことから、この相転移には通常の微視的測定では検出困難な「隠れた秩序変数」が存在することが指摘されている。現在まで、隠れた秩序変数に関する候補は20以上挙がっており、その多くはこの系の正方晶の結晶対称性や結晶歪みに敏感であると示唆されている。我々はこのことに注目し、中性子散乱を中心とした測定によりこの系の一軸応力効果を調べている。これまでの我々の実験では、一軸応力印加によって隠れた秩序に代わり反強磁性が発生することを明らかにした。そこで、本課題では反強磁性が発生する応力に比べより低い応力での精密な物性測定を試みるため、本年度はまず、URu2Si2の一軸応力印加実験に必要な一軸応力印加装置や、それに付随する冷凍機の整備を行い、測定環境の整備は順調に進展した。一方、本年度は一軸応力下中性子弾性散乱を行う予定であったが、東日本大震災によって茨城県東海村にある中性子関連施設は大きな影響を受け、今年度の原子炉運転は行われなかったため、残念ながら最大の目的である中性子散乱実験はできなかった。代わりとして一軸応力下巨視量測定を行う準備を始め、予備実験ができる段階までは達成した。本課題の目的の一つである試料作製環境の整備として、この系と同様な結晶構造を持つ類似の重い電子系物質の一軸応力効果を調べるために純良試料作製環境を構築し、本年度でいくつかの物質に対して単結晶試料の合成に成功した。これらは今後URu2Si2の比較対象物質として各種測定を行う予定である。今年度における試料合成や一軸応力実験環境に関する研究進展に基づき、次年度以降中性子散乱実験を行うことによって、特定の結晶歪みに呼応した隠れた秩序の挙動の有無が明らかにでき、得られる情報は四半世紀に及ぶこの物質の謎の解明に一石を投じることができると期待される。
3: やや遅れている
研究目的に記載した事項のうち、試料合成や一軸応力実験環境の整備に関してはおおむね達成したものの、中性子散乱実験に関しては東日本大震災に伴う茨城県東海村の原子炉が長期計画外停止したため、実験が行えなかった。
次年度には原子炉の運転が再開されることが見込まれているため、本年度の準備に基づいて中性子散乱実験を精力的に行う。その際、実験時間の圧縮のために、加える応力範囲を限定し、応力が隠れた秩序に与える影響のうち本質的なもののみを抽出できるように努力する。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (10件)
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