研究概要 |
ラットリングとは、ある種のカゴ上構造を有する結晶中での非調和巨大振幅振動と考えられているが、その本質の理解は未だ十分とは言えない。また、ラットリングとカゴに存在する伝導電子との相互作用がもたらす超伝導に関しても未解明な部分が多い。これまでの研究において対象となってきた物質は、βパイロクロア酸化物、スクッテルダイト、シリコン・ゲルマニウムクラスレートであるが、ラットリングに特徴的な物性が現れているのはβパイロクロア酸化物に限られている。今後、ラットリングの研究をさらに発展させるためには物質の種類を増やし、系統的な研究を行うことが重要である。 本研究においては、ラットリング物質の新しい候補として、A_xV_2Al_<20>(Al_<10>V)に着目する。この物質は30年以上前に、過剰のA原子として、AlまたはGa原子がカゴ中で局所低エネルギー原子振動をすることが報告され、さらに1.6Kで超伝導になる事が知られているが、局所振動と超伝導の関係は明らかとなっていない。本年度の研究においては、A_xV_2Al_<20>の良質な多結晶試料を合成し、比熱、電気抵抗、磁化などの測定を通して、その基礎バルク物性を明らかにした。 超伝導転移温度は、A元素がGa,Al,Yの順に、1.66K,1.49K,0.69Kであり、Laの場合には0.4K以上で超伝導を示さない。ラットリングの特性エネルギーはこの順に高くなる。よって、超伝導転移温度とラットリングエネルギーには明確な負の相関があることが分かった。ラットリングによって超伝導が増強されていると考えられる。さらに、Gaの量xを系統的に変化させて試料を作製し、xが0.2以上で転移温度が突然約8%上昇することがわかった。この原因はより低いエネルギーを持つGa原子がカゴの中に入ることによるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
A_xV_2Al_<20>の良質な多結晶試料の作製に成功した。当初予定していたのは、A原子がAl,Gaであるが、さらに、Sc,Y,Lu,Laにおいても試料作製ができた。これにより、ラットリングエネルギーの系統的な変化とこれに連動する超伝導転移温度の変化を確認することができた。また、Gaに関しては広い組成範囲において試料合成に成功し、8Kという極めて低エネルギーのラットリングモードを観測した。
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