本年度の実績は、主にたくさんのフォノンと電子が相互作用するようなシステムにおいて有効な連続時間モンテカルロ法の開発のまとめと、開発途中に新たに発見したこととして、電子格子相互作用系における共系場理論による臨界理論を構築することに成功したことである。前者に関してはすでにJournal of the Physical Society of Japanに掲載受理されており、後者に関してはPhysical Review B に出版されている。また、後者について9月に行われた日本物理学会で口頭発表を行った。 前者に関しては、連続時間モンテカルロ法のプログラムチューニングを綿密に行った。これらの計算は本年度の予算に計上した、東京大学情報基盤センターのスーパーコンピューターfx10のパーソナルコース2を主に用いて行われた。シミュレーションの温度が低温になるにつれて、計算コストが増大するのがモンテカルロ法の常であるが、十分な計算機資源を活用できたため、満足のいく精度が得られている。 後者について最も新奇な結果は、これまでナイーブに受け入れられていた臨界性が実は解析した電子格子模型においては変更を受けるということを厳密に示したことである。電子系だけでは記述できない相互作用――電子の電荷と格子振動が結合した複合自由度――が重要な働きをし、システムの臨界性を変更してしまう新しい理論を構築することができた。このことは研究計画には当初含まれていなかったが、上述の数値計算のアルゴリズムの構築とともに、当該分野の発展に大きな寄与をしたと考えている。 また、当初の研究計画にはなかったが、本新学術領域のなかでも重要な問題となっている強磁性超伝導体についての理論解析も行い、論文がPhysical Review Bに出版された。
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